第89話 オムレツを作ろう

 アキヒサはまずは先に、オムレツの具を作ることにする。

 アキヒサは芋を蒸して潰し、『粉砕』でひき肉にしたイビルボアの肉を炒めて、二つを混ぜておく。

 それからいよいよマーダーモンターナの卵の出番だ。

 卵黄と卵白に分けると、手ごろな器に卵黄を入れて混ぜる。

 次に別の器に卵白を入れ、『攪拌』でメレンゲにすると、混ぜた卵黄の器にメレンゲを加えて混ぜ、油を熱したフライパンに入れたら、蓋をして弱火で蒸し焼きにする。

 途中で具を上に載せて、それを挟むように二つに折ったら完成だ。


 ――これは、自分史上最高にフワフワなオムレツかもしれないぞ。


 とはいえ、人生でそれほどオムレツを作ったわけでもないのだが。

 これは誕生日やクリスマスなどの特別な日にご馳走なんてそうそう用意できない施設で、少しでも特別感が出るようにと考えた職員が作り方を調べて、アキヒサも手伝わされたので覚えていた料理である。

 けど普通の卵に比べて卵の匂いが濃くて、それが食欲がそそられる。


「フワフワ!」


このオムレツを背後から見た、レイのテンションはだだ上がりだ。

 オムレツを皿に盛り付け、トマトソースを添える。

 このソースは「とまり木亭」の御主人お手製だ。

 アキヒサはせっかくなので、このソースでレイのオムレツにデフォルメされたシロの顔を描いてみた。


 ――オムレツだと、主食はパンかな?


 そう考えたアキヒサは自分用に黒パン、レイ用にパンケーキを出す。


「レイ、お待たせ。これがレイの分な」


アキヒサがオムレツの皿をテーブルに置くと、レイは無言でいそいそと椅子によじ登り、「ふわあぁ!」と言わんばかりの表情でオムレツを観察している。

 その足元にいるシロにもちゃんと皿を置いてやり、自分の分も並べると、早速実食である。


「いただきます!」


「いただきます」


「アン!」


それぞれに食前の挨拶をすると、レイが早速オムレツのソースで描かれたシロの顔の真ん中にスプーンをぶっ刺したのは、ある意味お約束だ。

 その様子を横目に、アキヒサもスプーンで掬い取ったオムレツを、口に入れる。


「……!」


想像以上の味に、アキヒサは驚く。

 卵は思っていたよりもずっと濃厚で、生クリームを入れたわけでもないのにとてもクリーミーで、中に入れている具材に絡んだ、ねっとりとした部分もまた美味しい。


 ――これは美味しい!


 オムレツでこれなのだったら、この卵でケーキを作ったらどうなるのか?

 非常に気になるところだ。

 さて、レイはどうかなと思って視線をやると。


「……」


レイは目を閉じて、じっくり味わうようにゆっくりとモグモグしている。

 まるで有名な美食家の食事風景のようだ。


「レイ、美味しいか?」


その様子を見れば一目瞭然なのだが、アキヒサは一応聞いてみる。

 それにこういう感想はちゃんと言葉に出して表してほしいし、黙っていてもわかってくれるという風に会話に甘えを持っては、今後困るのはレイだ。

 いいことはどんどん口にして、悪口は黙る。

 これはコミュニケーションの基本である。

 するとしばし待つとゴックンをしたレイが、「うむ」と大きく頷く。


「これ、すき」


断言である。

 今までにない反応で、もしかしてレイは卵料理が好物なのかもしれない。

 肉食幼児にとって、肉の元である卵は口に合ったということか。

 これは、卵料理のレパートリーを増やしておく必要があるかもしれない。

 あと、美味しい卵の確保も同時に進行しておかなければならないだろう。


 ――マーダーモンターナの巣、まだその辺りにないかな?


 マーダーモンターナが重要な魔物になった瞬間である。

 さらに他にも美味しい卵が採れる魔物を、今度ギルドでチェックしておこう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る