第88話 卵をゲット

 とにかく、解体ができない以上、これを料理するのは後でのお楽しみということになるわけで。


「レイ、食べるのはアイカ村で解体してもらってからだな」


アキヒサがそう言うと、レイはショックを受けた顔をしたものの、やがて「……あい」とちゃんと頷いてくれた。

 がっかり感は否めないが。


 ――どうも、すごく食べてみたいみたいだなぁ。


 そんなレイをシロが足元から見上げてキュンキュン鳴いているが、レイはがっかり過ぎて相手をできないでいる。

 そのシロは、マーダーモンターナを怖がる様子は全くない。

 これが自分より格上の魔物だと、たとえ死体であっても怖がるのだが。

 となると、ウィングドッグは成獣であればマーダーモンターナよりも格上なのだろう。

 ウィングドッグの子どもは本来なら大人に守られて育つみたいだし、大人は余裕で倒せる相手なのだろう。

 ちなみにシロは戦闘中も邪魔にならないように大人しくアキヒサの懐に入り込み、たまに氷の息を吐いてダメージを与え、ちゃっかり、しかし地道に経験値を稼いでいた。

 それはともかくとして。

 レイの様子を見ていると、これはやはり今後を考えて、解体技術を学んだ方がいいのかもしれない。

 それでスキルになったらラッキーだ。

 けれどそんな今後の方針よりも、今はしょんぼりなレイの気分を上げる方が先だろう。

 マーダーモンターナの肉はまだ食べられないけれど、卵は食べられる。

 鑑定すると「生食可」と出たのだ。

 それにこの街道沿いにかなり大規模に巣を作っていたみたいで、結果として結構な数の卵が手に入ったのである。


 ――それにしても、僕としては卵ゲットでラッキーだったけど、治安的にはアウトだよな?


 人が頻繁に通る真横で繁殖とは、危ないなんてものではない。

 こうなると、ガイルたちの調査結果が早く出ることを願うばかりだ。

 そんなことを考えつつ、アキヒサはレイの前にしゃがんで、鞄からマーダーモンターナの卵を取り出した。


「レイ、今日はお肉は無理だけど、卵でなにか作るからさ。

 きっと市場で買った卵よりも美味しいぞ?」


アキヒサが両手で持つほどに大きな卵を見せながらそう言うと、レイはちょっぴり顔を上げた。


「たまご?」


「そう、卵」


アキヒサはレイの両手に卵を載せた。

 こんなに大きいのだから、卵焼きにすると何人分になるのだろうか?

 卵焼きでパーティーができてしまうかもしれない。

 その卵をシロもフンフンと臭いを嗅ぎに来る。

 ちなみに、鳥の肉や卵は市場で養鶏や野鳩などのものが売られているが、魔物の肉や卵は魔力を含んでいるので、より味が濃厚に感じられるのだという。


 ――これはぜひ、味比べをしてみたいな!


 そんな思惑もあって、アキヒサはレイに言い募る。


「この卵でなにかフワフワなのを作って食べよう?

 きっと美味しいぞ?」


「フワフワ」


アキヒサ提案の「フワフワ」と聞いて心が動いたらしいレイが、とたんに目をキラキラさせる。

 こうして、今夜は卵料理で決まった。

 とはいえ、卵料理というのも色々ある。

 フワフワだと卵焼きもいいけれど、子どもが喜ぶとなると、やはりオムレツだろうか?


 ――オムレツ自体は「とまり木亭」でもメニューにあったんだけど、フワフワじゃあなかったんだよね。


 ネックになっているのはメレンゲだろうか。

 となると、やはりスキルだろう。

 つくづく、スキルの本当の力が早く広まってほしいものだ。



というわけで、その日の夜。

 アイカ村に明日にでも着くだろう場所で、野宿となった。

 テントを設置して布団もセットし、テント前に敷物を広げてその上にテーブルセットを設置すれば、野宿とは思えないダイニングスペースの完成だ。

 そして虫避けになるかと、薄く結界を張ってみた。

 アキヒサの魔力量からすると、まだあまり長時間結界を張っていられないのだが、魔術の特訓だ。

 これもブリュネのスキルの使い方を見て、スキルレベルが上がれば楽に技が使えると考えてのことである。

 カマイタチを使うのに苦労するのは、スキルレベルに見合わない技だからかもしれない。

 同じく魔術の特訓で竈も魔術で作る。現実でのレベル上げとはゲームと違い、こういう地道な努力がモノを言うのかもしれない。

 アキヒサはこんな感じで準備をしてから、早速オムレツ作りの準備を始める。


「たまご、フワフワ」


レイはアキヒサの手元を、傍目には分かり辛いだろうがワクワクした様子で覗き込んでいる。

 レイが待ちきれなくなる前に、手早く作ってしまおう。

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