第84話 商業ギルド

「これを大々的に売るためには、髭剃り店との話し合いも必要でしょうけど。

 むしろ売る場所を髭剃り店にするのも手ですかね?」


「そのあたりは俺にゃあわからん、職人ギルドを通じて商業ギルドへ持ち込んでみるかぁ」


アキヒサの考えたなように、おじさんは首を捻りながらそう告げる。

 なんでも職人ギルドでは技術の管理をしており、日本で言うところの特許みたいなシステムがあるのだそうだ。

 そして商業ギルドは資金の管理をしたり商売の相談に乗ってくれる、銀行のような役割がある。


「このシェーバーっていうのを職人ギルドへ登録すると、提案者のあんちゃんにも金が入るぜ」


「あ、そうなんですね」


お金は生きていくうえでなにかと必要なので、収入があるのは純粋に嬉しい。

 そして冒険者ギルドで作ったカードは各ギルド共通で使えるものなので、もちろんのこと商業ギルドでも使えるし、簡単にお金を預ける口座を作れるという話は説明を受けていた。

 各ギルド共通カードだなんて、まるで銀行のATMカードみたいだ。

 今までアキヒサは鞄に入れてしまえば嵩張らないかと、口座については考えていなかったけれど、大金を持ち歩くリスクっていうのは確かにある。

 それに口座を作れば、自分で手続きせずともそこに依頼料を振り込んでもらえるらしい。


 ――この際だから、商業ギルドで口座を作っちゃうか?


 そんなわけで、シェーバーを受け取ったアキヒサは職人ギルドの件はおじさんに任せることにして、商業ギルドへ口座を作りに行くことにする。

 しかし移動の前に大鍋を買った。

 麦ご飯を炊くにしても、今手持ちのものよりも大きな鍋が必要なのだ。



こうして到着した商業ギルドの建物は、冒険者ギルドから荒々しさや雑多な感じを取り除いた、まさに銀行みたいな場所だった。

 アキヒサは開いている窓口へ行って、そこに座っている受付嬢に冒険者ギルドのカードを見せた。


「すみません、口座を作りたいんですけど」


「はい、わかりました」


受付嬢はアキヒサのカードを受け取り、コンピューターのような物体に差し込んだ。


 ――アレも遺跡からのリサイクル品かな?


 そんなことを考えながら、作業を見守った。

 ちなみにレイはアキヒサの足元に座り込んで、長くなるのを見越して出しておいた積み木でシロと遊んでいる。

 やがて作業を終えたらしい受付嬢が、アキヒサにカードを戻しながら言った。


「トツギ・アキヒサ様、新技術料の支払い依頼がございますね」


「……はい?」


言われたことの意味が分からず、アキヒサは間抜けな声を上げる。

 詳しく説明を求めたところによると、新技術料の支払者はリンク村の「森のそよ風亭」のグルーズと、ここニケロの街の「とまり木亭」のご主人。

 それぞれフレンチトーストとパンケーキの提案料らしい。


 ――聞いてないよ、そんなの!


 これに驚くなという方が無理だが、そう言えばリンク村の食堂でグルーズとガイルはギルドが云々という話をしていた気がする。

 グルーズはアキヒサがどこかのギルドへ登録すれば、いつか商業ギルドへ口座を作りに行くだろうと考えたのかもしれない。

 そして「とまり木亭」のご主人は、完全なるサプライズだろう。

 それにしても二人とも、フレンチトーストとパンケーキを独占しようと考えなかったようだ。

 まあアキヒサでも作れるくらいに作り方は簡単だし、遅かれ早かれ真似する店が出てくるだろう。

 それくらいなら登録してしまって、「元祖」の称号を得た方がいいと考えたのかもしれない。

 とにかくこれでまた思わぬ収入を得てしまったわけで、「これはちょっと値が張った買い物ができてしまうんじゃないか?」などと妄想していたアキヒサは、ふと足元を見る。

 すると床にしゃがんだレイが積み木の大作を作り上げていた。

 なんだろう、奇妙なオブジェなのだが、芸術性を感じさせられる作品だった。


 ――いつの間に、こんなものを!?


 気付かなかったアキヒサは驚くばかりだが、レイはアキヒサがこちらを見たことで用事が終わったと思ったのか、過去を振り返らない質なこともあり、作品を気前よくガッシャーンと壊してしまった。


「あぁ~」


周りで積み木の完成を見守っていたらしい大人たちが、というため息を漏らしている。


「お待たせレイ、積み木を片付けたら出ようか」


アキヒサがそう声をかけると、レイはコックリと頷いてから積み木を集め出したので、アキヒサとシロもそれを手伝う。

 お片付けまでが積み木遊びだとわかっているとは、じつにできた幼児である。

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