第77話 ブリュネの農園へ

そして約束の日である、二日後。


「いらっしゃい! ようこそアタシの農園へ!」


ニケロの街の郊外にあるその場所でアキヒサらを出迎えたのは、麦わら帽子にツナギ姿という、ファーマールックに身を包んだブリュネだった。


 ――うーん似合っている、美人はどんな格好も似あうんだな。


 かくいうレイも、あのコスプレ店で手に入れたファーマー姿だったりする。

 首に巻くタオルまでミニマム仕様というこだわりの品だ。

 それにしても、ブリュネの農園というのがまたすごい。


「これはもう、趣味のレベルじゃないって言うか……」


アキヒサは感心しながら見渡す。

 よく手入れされている結構広い畑の他に、小さいながらも果樹園があり、いくつかの木に立派な実がなっている。

 さすがブリュネ、園芸レベルが高いだけのことはある。

 その中でもなにも植えられていない畑へ、アキヒサたちは案内された。


「今日はこの種を蒔こうと思っているの。レイちゃんこれを見て」


そう言ってレイの目線までしゃがんだブリュネの差し出す掌に、なにかの種があった。


「つぶつぶ」


レイがそれを見てこてんと首を傾げるのに、ブリュネが「フフッ」と笑う。


「そう、つぶつぶなのよ。

 このつぶつぶを土に埋めて、お水をあげながら気長に待つとね、美味しいお野菜になるのよぉ」


ブリュネに説明されても、まだ首を傾げるレイ。

 恐らく種と野菜のイメージがつながらないのだろう。


「レイ、そのつぶつぶが、あっちの畑の葉っぱみたいなのになるんだよ」


アキヒサがそう話すと、驚いたらしいレイは目を丸くする。


「つぶつぶなのに」


「そうよね、不思議よねぇ」


レイの感想に、ブリュネが頷く。

 言われてみれば、こんな小さな種があんな立派な葉っぱを生むのだから不思議である。

 幼児の素直な視点に、アキヒサも心を洗われるようだ。

 そんな話をしてから、ブリュネがあらかじめ整えてくれていたその畑に、レイは教わりながら種を一つ一つ埋めていくことになった。


「レイちゃん、『美味しいお野菜になりますように』ってお願いしながら種を埋めるとね、ちゃあんと美味しく育ってくれるのよぉ」


ブリュネがそう話すのに、レイは真剣な表情でコクリを頷く。


「おいしくなりますよーに」


「アン!」


真面目な顔で言うレイの横で、シロも真似するように鳴くと、手伝っているつもりなのか前足で穴を掘っている。

 こうして種を蒔き終わったら、ブリュネが畑に「レイちゃんの畑」という看板を立ててくれた。


「このコたちが食べられるようになった頃には、レイちゃんももうちょっと大きくなっているかしらね?」


「ハハッ、どうですかね?」


ブリュネの言葉に、アキヒサは笑いつつも「どうなんだろう?」と疑問に思う。

 生体兵器のレイは、果たして人間と同じように成長するものなのか?

 こればかりはこの野菜の種と同じように、育ってみなければわからない。


「この野菜は、どのくらいで食べられるようになるんですか?」


「これは成長が早いから、ちょっと待ってもらえれば食べれるようになるわ」


アキヒサの質問に、ブリュネがそう答える。

 なるほど、ブリュネはレイのために収穫の早い野菜を選んでくれたのだろう。

 特に他所へ行く用事があるわけでもないし、収穫体験をするためにも、この街にはしばらく滞在したいものだ。


「この街にはしばらくいるつもりなんで、ぜひ収穫までお願いしたいですね」


アキヒサたちがそんな話をしている間、レイはシロとどっちが深く穴を掘るかを競っていた。

 その後、ブリュネに園芸スキルの技を色々見せてもらった。

 なんと、鍬を使わなくても頭の中で思い描いた範囲を耕せる技が使えるようになったのだという。


「『耕作』」


ブリュネが唱えると目の前の畑が仄かに発光し、次の瞬間一気に耕作地に変化する。


「おお! これはすごいですね!」


アキヒサは想像以上のスキル効果に、目を丸くして驚く。


「オンオン!」


急にフカフカになった大地に、シロが興奮したように突撃して土を掘り始め、レイまで一緒になってやり出す。


 ――やっぱり子どもって土いじりが好きなんだなぁ。


 子どもたちの様子に、アキヒサはホッコリした気分になる。

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