第74話 他の狩場へ行ってみよう
ところで、アキヒサがやってしまった『治癒』の魔術だが、後でしっかりブリュネから叱られた。
『アナタは非常識なんだから、目立つマネをしたら厄介ごとを引き込むわよ!』
ぐうの音もでないくらいの正論である。
それでもその後、『若いコたちを助けてくれてありがとう』とお礼を言われてしまう。
叱るのと褒めるのをうまく伝えるあたりが、ギルドマスターという上に立つ人っぽくて、アキヒサはちょっとジーンときた。
――社畜してた頃に、こんな上司に出会いたかったなぁ。
しみじみとそう思うアキヒサであった。
そんな感じでいい話で終わるかと思いきや、この話には意外なところから横槍が入った。
アキヒサたちがホールに戻ると怪我人の人数が半分ほどに減っていて、「怪我が治って帰ったのだろうか?」と考えたアキヒサだったが、どうも様子がおかしい。
そこでホールにいた、とある子ども好きの冒険者が教えてくれた話によると、アキヒサたちが倉庫で話し込んでいる隙に、教会関係者が現れたそうで。
『あれは、まさしく神の奇跡です!』
そう宣言したのだという。
その教会関係者とは、どうやら昨日アキヒサが絡まれた例の司祭のようだ。
彼女は冒険者ギルド専門に営業している人だと、その冒険者は言っていた。
――教会にも営業仕事があるんだなぁ、まるで会社みたいだ。
アキヒサのそんな感想はとにかくとして。
あの司祭は、若者たちに演説したという。
『神は、もっとスキルを得て危機を乗り越えよと、そう申されているのです!』
この主張も珍しいものではなくていつものお決まりのセリフで、普段ならば「ああ、いつものアレか」と相手にされなかったのだろうと、その冒険者が言っていた。
けど実際に若手冒険者は、司祭の言うところの奇跡を目の当たりにしたわけで。
『そうだな、やっぱりスキルって必要だよな』
『でも、兵士にならないと高いし……』
若手冒険者たちの不安に、司祭はにっこり笑った。
『ご安心を、分割払いも取り扱っております!』
そう吹き込み、結果としてそのセールスに乗ってフラフラと教会に連れていかれる者が続出したそうだ。
――なんか、妙な被害が飛び火している気がする。
このスキルに関しては、ブリュネに期待するしかない。
冒険者として新参者のアキヒサがなにを言っても、他の冒険者たちの心に響かないだろう。
それに教会と揉めるなんて、嫌な予感しかしない。
そんなこんながあって翌日になると、冒険者ギルドは大騒ぎになっていた。
「いいじゃないか、俺らは大丈夫だって!」
「どうせ弱っちい連中が下手打ったんだろう?」
昨日のあの状況を知らない他の初心者冒険者たちが、受付に食って掛かっているのだ。
あそこは彼らにとって手軽なランクアップ場所であったようなので、そこに入れないとなると不満が出るのも無理はない。
そんな彼らの一方で、アキヒサたちはあの林に入れなくなっても、さほど問題はないというか。
元々自分たちがあそこを狩場にするのは、荒し行為に近いんじゃないかという気がしていたのだ。
なので昨日のうちに情報を集めていたのだけれど。
「レイ、今日はちょっと離れた草原の方へ行ってみようか」
「そうげん」
わからないけれどとりあえず復唱してみた様子のレイに、アキヒサは一番大事な草原での目的を告げる。
「草原にはね、アーマーバッファローがいるみたいだよ。
そのお肉が美味しいんだって」
「おいしいおにく」
このアキヒサの説明に、レイはちょっと興味を持ったようだ。
情報源であるニールの話だと、そのアーマーバッファローとやらが料理店に人気とかで、幾ら狩っても追い付かないんだそうだ。
――美味しい肉かぁ。宿に肉を直接持ち込んだら、贅沢にステーキにしてくれるかな?
あとバッファローとは牛の仲間だったはずで、そうなるとアキヒサは牛丼が食べたくなってきた。
社畜をやっていた日本で、よく食べていた思い出の味だ。
とはいえ、調味料でまだ醤油を見つけられていないのだが、今手に入るもので牛丼に近いものができないものか。
海外だと現地の人の口に合うようにアレンジされているものだし、今度どこかで色々調味料を手に入れて試してみたい。
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