第73話 立ち入り禁止

それからアキヒサたちはブリュネとニールと一緒に、再び倉庫へやって来た。

 アキヒサが持ち込んだこんもりと積み上げられた魔物の山を見て、ブリュネが険しい顔をする。


「ここにある魔物が、あの林で狩られたって? 本当なのそれ?」


ブリュネにそう尋ねられ、アキヒサは一旦疲れを忘れて真面目な顔で頷く。


「はい、手前の初心者エリアを素通りしたとはいえ、それほど奥へ入り込んでいなかったはずです。

 むしろ帰りの事を考えて近場にいましたし」


これはマップを確認しながら移動したので、間違いないはずだ。


「そうね、レイちゃんを連れて行くなら、歩きでの移動距離なんて知れたものだわ」


アキヒサの意見に、ブリュネは特に疑わなかった。

 そう、どんなにスタミナがあっても、幼児の足の長さはいかんともしがないのである。


「僕もここの魔物だけだと気付かなかったんですけど、さすがにコレがここにいるのは変だなって思いまして」


アキヒサはそう言いながら、もう一度アースドラゴンを頭だけ鞄から出す。

 ブリュネもこれには驚いた顔をする。


「こんなものまでいたの!?

 っていうか狩っちゃったの!?」


そう叫んだブリュネは視線をちらりと、倉庫の隅でシロと積み木で遊んでいるレイにやる。

 話が長くなりそうだから、退屈しないように出してあげたのだ。


 ――というか、ブリュネさんはアースドラゴンを狩ったのが僕じゃなくてレイだと思うんだなぁ。


 まあ、合っているのだけれど、ニールはアキヒサの手柄だと考えていたみたいだというのに。

 もしやブリュネは強者だけが感じる強さというもので、レイの実力を把握しているのかもしれない。

 そんなことはともかくとして。


「アースドラゴンが初心者エリアのすぐ隣にいたら、大問題ですよね?」


「当たり前よ、あそこを速攻で封鎖して討伐依頼を出しているわ。

 でも、アースドラゴンの目撃情報なんて、なかったはずよね?」


アキヒサの質問に、ブリュネが渋い顔で返し、後半をニールに確認する。


「はい、私もそのような情報を目にしていません」


ニールもこれを肯定する。


「そうなるとつい最近、今日の内にでも山から降りて来たんですかね?」


「そういうことでしょうね。

 むしろここに置いてある魔物と遭遇したのがアナタたちで、助かったと言えるでしょう」


 ――それは確かにそうだ。


 もしこれが初心者を脱したばかりの冒険者だったら、逃げるのも難しかっただろう。

 アキヒサが静かに積み木遊びするレイを眺めながら、そんなことを考えていると、ブリュネとニールが話し合いを始める。


「ゴルドー山で異変が起きているのかもしれないわね。

 早急に調査隊を編成する必要があるかしら」


「しばらくあの林は立ち入り禁止とします」


「それがいいでしょうね」


二人の息の合った調子で結論を出したところで、アキヒサは改めてアースドラゴンの提出を求められた。

 討伐が困難だが人気のある素材らしく、高値で売れるのだそうだ。

 なので素直にアースドラゴンを倉庫に置いたら、その場にいた他の人たちにものすごく騒がれたのは、言うまでもないかな。



その後、すぐに林エリアの立ち入り禁止のお触れが出された。

 このことはニケロの街を治める領主にも使者を出して、住民にも知らせるそうだ。

 あの林に入るのは冒険者だけではなく、猟師や薬師などもよく使う場所であるらしい。

 幸いそうした人たちは、あの時はたまたま林に入っていなかったそうだ。

 ともあれ、あの林はしばらく狩場として使えないことになったわけで、そのせいで初心者たちの行き場が減ってしまった。


「この件を早く解決しないと、手柄欲しさに無茶をする連中が出かねないわねぇ」


ブリュネが心配していて、そんな事態を避けるためにも調査を早く済ませて問題を解決する目的で、高ランクの冒険者に依頼を出すらしい。

 アキヒサとしては早く問題の原因が分かって、平穏になるのを祈るばかりだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る