第72話 鑑定レベルアップ

 それよりもこれは、レイが暴れた影響とかいうことではないと思いたい。

 レイという絶対強者の存在が、魔物パニックにさせたという可能性も、なくはない気がしてならないのだ。

 どうやら生態系がおかしなことになっているみたいだし、否定できないかもしれない。


「あの、これって僕たちがアレを狩ったからとか……」


アキヒサがニールにヒソッと確認すると、ニールは厳しい表情だったのを若干緩めた。


「いえ、それよりもあなた方が狩ってくれたからこそ、この程度だったのだと思います。

 魔物の移動に運悪く遭遇したのでしょうが、その中にもしあの魔物たちが一体でも残っていたら、被害はこんなものではなかったでしょう」


「……なるほど?」


アキヒサはとりあえず頷いておくが、「なんだ、自分は悪くないのか」とは考え難い。

 ニールは責任感を感じさせないようにとの配慮もあったのかもしれないが、なんらかの影響があったのだとは思う。

 それにあのエリアは初心者向けの狩場だったわけで、当然怪我人は初心者の十代の若者ばかり。

 そんな子たちがこの怪我で一生モノの後遺症が残ったら可哀想だし、これから迎える冒険者としての華々しい未来を折るのは忍びない。


 ――ここは、魔術でこっそりやっちゃうか?


 治癒の魔術はいざという時のためにちゃんと練習しているのだが、この人数を一人一人見るのは手間だし、時間がかかる。

 やったことはないが、いっそエリア指定みたいにして一気にやるのはどうだろう?

 怪我人をまるっと囲むイメージだと、イケるかもしれない。

 そうと決まれば、早速実行だ。


「『治癒』」


アキヒサがヒソッと小さく唱えると、ホールに淡い光が満ちた。

 その光が怪我人にまとわりつくと、「今度はなんだ!?」というざわめきが広がる。

 しかし光るが治まると、痛みを訴える声が止んでいた。


「今の、なんだったんだ?」


「あれ、もう痛くない」


「おい、動いていいのかよ!?」


再びザワザワと騒ぎ出す若手冒険者たち。

 どうやら浅い傷は治り、深い傷も痛みが和らいだようだ。

 その一方で、アキヒサは猛烈に体がダルい。

 もうこの場で床に転がって寝てしまいたいくらいである。


 ――もしかして、今の『治癒』の魔術のせいか?


 ピコン♪


 そこに、パネルが反応した。


~~~

名 前 戸次明久

性 別 男性

年 齢 20歳

職 業 冒険者

レベル 8

体 力 35/48

魔 力 6/92

 力  29

守 備 28

器用さ 44

素早さ 30

 運  9

スキル 全属性魔術レベル3 鑑定レベル5 探索レベル5 精神攻撃耐性レベル100(最大値) 料理レベル9

~~~


なんだかまさしくRPGみたいなステータスが出た。


 ――鑑定のレベルが規定を越えたのか?


 ステータスの詳細が見れたらいいなと思っていたので、この機能は素直に嬉しい。

 そしてこの数値を見たアキヒサがまず思ったことは、「運が低くない?」だった。

 他の項目が概ね20オーバー、器用さに至っては40オーバーなのに、運だけ一桁とはどういうことか?

 けれど確かに、こんな世界に来てしまったことは運がないと言えるかもしれない。

 そしてダルい原因は魔力だろう。

 見れば少ししか残っていない。

 想像はしていたが、さっきみたいなエリア魔術は余計に魔力を食うのだろう。


 ――うん、今後のためにも積極的にレベル上げをして、全体的に数値を上げよう。


 アキヒサがそんなことを考えている一方で。


「これは、一体なにが起きたというのか」


怪我人たちが突然回復したことに、ニールが困惑していると。


「何事なの!?」


そこに外からブリュネが飛び込んできた。

 どうやら外へ出ていたところを、知らせを聞いて急いで戻って来たようだ。


「それがですね」


ニールさんがすぐにブリュネへ駆け寄り、事情を手短に説明する。

 そして光が溢れた謎現象のあたりで、「はぁん?」とアキヒサの方をジロリと見た。


「ハハハ……」


アキヒサはとりあえず笑っておく。

 どうやらアキヒサの仕業だと悟られたようだが、ここはごまかすの一択だろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る