第71話 いないはずの魔物
アキヒサはまず、基本的な事を尋ねる。
「ここに置いた魔物って、普段はあそこにいないんですか?」
正直に言えば、レイ無双でまとめて狩ってしまったせいで、アキヒサにはこれらがどれくらい強い魔物だったかということが、さっぱりわからないのである。
「ええ、これらは山に少し登ったあたりに生息している魔物ですよ」
ニールが難しい顔で答えた。
――それだったら、避けているアースドラゴンはどうなるんだろう?
あれこそ初心者エリアに近い場所にいたことに、違和感がありまくりなのだが。
「あのぅ、だったらコレはどうなんでしょうか?」
アキヒサはアースドラゴンをニールに見せようと、頭だけちょろっと鞄から出して見せる。
鞄の口とアースドラゴンとのサイズの違いが半端ないが、鞄が破けたりしないのが謎仕様だ。
アースドラゴンを見たニールは、目が落ちるのではないか? というくらいに目を見開いた。
「それは、アースドラゴンではないですか!?
冒険者でも高ランクグループ複数で当たり、下手をすると国の軍が出るレベルの魔物ですよ!?
それでも討伐に数日かかるというのに……」
ニールが悲鳴交じりに叫ぶ。
――すみません、レイが一人で狩っちゃいました、ソレ。
アキヒサは内心で非常識を謝りつつ、質問を続ける。
「ちなみに、どのあたりに生息しているものなんですか?」
「山頂です。
こちらから攻撃しない限りは無害なのですが、危害を受けると狂ったように暴れまわるため、非常に危険な魔物です。
攻撃がほとんど効かないこともあり、見かけても素通りするのが通常ですね」
ニールの説明に、アキヒサは首を傾げる。
レイはこれで、見境なしに魔物狩りをしたりはしない。
敵意を感じる、なんとなく嫌な気配がする、というもの反応をするらしいのだ。
でないとシロは今こうしてここにいないし、事実今日も林の奥のエリアにいた無害そうな大人しい魔物は残されていた。
となると、アースドラゴンの方からレイを襲ってきたことになるのである。
――レイの威圧感に恐れをなしてパニクった、っていう線もあるかもだけど……。
アキヒサはそんな風に悩みながらも、とりあえず事実を伝える。
「でも、コレも同じ場所で狩ったんですけど」
アキヒサの話に、ニールは深刻そうに眉間にしわを寄せる。
「それが本当の話だとすると、非常にまずいことになります。
あのあたりを狩場にしている冒険者には、到底手に負えるものではない」
ニールがそう告げた、その時。
「ニールさん、大変だ!」
ギルド職員らしき人が、倉庫へ飛び込んできた。
「何事ですか?」
ニールが問いかけるのに、その職員は慌てふためていている。
「林から帰って来た冒険者たちが……、とにかく来てください!」
説明にならない説明をした職員が両手を振ってコイコイとやっているのに、ニールは「もしかして」と呟いてそちらへ向かう。
アキヒサも気になったので、レイたちと一緒にニールについて行くことにした。
呼びに来た職員が示したのは、ギルド入り口前のホールだ。
そこには、大勢の怪我人が溢れている。
「痛ぇよぉ」
「私、死んじゃうの?」
「誰か、コイツに薬をくれ!」
そんな悲壮な声が、ホールのあちらこちらから聞こえてきた。
「林の狩場に向かった連中が、皆このような状態で戻ってきました」
職員がニールさんにそう説明する傍らで、他の職員が薬や包帯を持って駆け回っているのが見える。
「どういう状況でこうなったのか、聞きましたか?」
ニールの問いかけに、職員が「はい」と頷き語った。
「彼らの話によると、急にいつもより強い魔物がどこからかやって来たそうです。
到底太刀打ちできるものではなく、命からがら逃げて来たとか」
この話に、アキヒサは「う~ん」と考える。
――僕たちが街へ戻る際に見かけたときは、それほどでもなかったんだけど。通り過ぎた後のことかな?
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