第70話 帰ってきた
こうして、魔物狩りを兼ねたピクニックからニケロの街へ戻ると、冒険者ギルドのホール内は他の冒険者の姿はまばらだった。
アキヒサたちが早く帰ってきたせいで、まだ冒険者の戻りのピーク前であるようだ。
「おや、お早いお戻りでしたね」
アキヒサたちの姿を見て、ニールがカウンターから出て来た。
このニールはブリュネと対等に話すくらいだから、カウンター業務をするような人じゃあないのだろうけれど、どうしてここにいたのだろうか?
――もしかして心配して、僕たちが戻るのを待っていたとか?
ニールは最初から、幼児のレイの事を気にしてくれていたのを思い出す。
「ただいま戻りました。レイの体力に合わせて帰ってきましたから」
「お帰りなさいませ。
無理をしないのは、冒険者稼業を長く続けるためにはいい心がけですよ」
アキヒサがそう挨拶すると、ニールが微笑んでそう返してくる。
「それで、なにか狩れましたか?」
続いてニールが手ぶらのアキヒサたちを見て首を傾げつつも尋ねた。
確かに今持っている獲物というか魔物は、レイが抱いているシロだけだ。
なのでニールの視線がちらりとシロを見るが、もちろんシロを出すつもりはない。
だからレイはそんなにギュッと腕に力をこめないであげてほしい、シロが苦しそうだ。
アキヒサはニールに説明する。
「この鞄が妖精の鞄でして、ここに全部入れてあるんですよ。
ちょっと大きいのがあるんですけど。
ここで出したらマズいですよね?」
「ああ、妖精の鞄をお持ちでしたか。
では、こちらへどうぞ」
ニールが納得したように頷くと、場所を移動するように促す。
そして連れていかれたのは、大きな倉庫だった。
あちらこちらに討伐された魔物が置かれているところを見るに、冒険者が持ち帰ったものを一時的に保管する場所のようだ。
しかもちょっと生臭いので、ここで解体もするのだろう。
「ここの空いている所へどうぞ」
ニールに指示されたのだが、アースドラゴンはここでも出すには明らかにサイズオーバーだったので、アキヒサはまずアースドラゴン以外のものを全部出すことにした。
「なんとまぁ……」
どんどん出していくアキヒサに、ニールが目を丸くしている。
恐らくはビックリする量なのだろうとは、さすがにアキヒサにも想像できた。
けれどこういうのは下手に隠さずに、最初にやらかした方が、後々楽だと思ったわけだ。
――なにより、鞄の中に魔物の死体がみっちり入っているって、なんか嫌だし。
というわけでひたすら鞄から魔物を出していくアキヒサの横で、レイはというとシロと遊び始める。
レイは退治した後の魔物には一切興味がないらしいのだ。
「これはこれは、トツギさんがこれほど強いとは。
私はあなたを少々見誤っていたようです」
ニールはどうやら、これらを狩ったのはアキヒサだと思ったようだ。
これを敢えて訂正することもないかと思い、アキヒサは「すみません、ちょっと多かったですよね?」と謝っておく。
驚きすぎて呆気にとられた様子のニールは、「いえ」と首を横に振る。
「ブリュノルドがたまに大量に持ち込むことがあるので、量は問題ないんですが」
そんな反応が返ってきた。
――あ、問題ないんだ。
というかこの倉庫は、どうやらブリュネに合わせたサイズだったらしい。
「それよりもトツギさん、きちんと説明したつもりでしたのに、まさか山へ入ったのですか?」
「はい?」
ニールが厳しい顔で詰め寄ってくるのに、今度はアキヒサが呆気にとられた。
確かにニールからは、「エリア区分を守るのは他の冒険者を守るためのルールでもある」とくどい位に言われたものだ。
「いえいえ、山に入ったらこんな時間に戻っていませんってば」
「そうか、そうですよね、失礼しました」
アキヒサの言い分にニールも理解を示し、引き下がって謝罪するものの、一方でまだ納得しかねる顔である。
「これは全部、林の奥のエリアで狩ったんです」
続けてアキヒサが説明すると、「なんですって⁉」とニールが驚愕した。
「林に、これらの魔物がいたんですか!?」
なにやら、話がややこしくなってきたような気配である。
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