第69話 お弁当を食べて帰るまでがお仕事です
そんなことをしていると、太陽はとっくに真上に登っている。
これからニケロの街まで帰ることだし、仕事初日から無理をすることもないだろう。
「レイ、今日はここまでにしてお昼にしようか」
アキヒサがそう声をかけると、レイは無双した後の休憩でシロを真似して土堀をしていたのを止めて、こっちに歩いて来た。
そうそう、今日は宿で昼食を作ってもらっているので、アキヒサはどんな風なのか楽しみなのだ。
しかし、その前に。
「まずは身綺麗にして、食事の準備をしようか」
「きれいにしてたべる」
アキヒサがそう呼びかけると、シロを抱えたレイが「クリーン」をかけてもらおうとスタンバイしている。
これも普段の教育の成果だろう。
というわけで、皆で全身を綺麗にしてから竈を作ってお茶を飲むためのお湯を沸かしつつ、鞄から昼食だと渡された結構大きめなバスケットを出す。
この昼食をお願いした際、荷物になる事を心配されたので妖精の鞄を持っていることを告げたら、今朝渡されたのがコレだったのだ。
そのバスケットの蓋を開けると、中はパンケーキとおかずが入っていた。
華やかな盛りつけは見た目に楽しく、しかも全部がレイに食べやすいサイズになっている。
もちろん、シロ用の食事も入っていた。
さらにパンケーキには、デフォルメされた犬っぽい絵がソースで描いてある。
――これはシロをイメージしたのか?
「レイ、この絵はシロじゃないか?」
レイに教えてやると、レイはパンケーキとシロを交互に見ている。
ご主人はきっとレイのためにしてくれたのだと思われ、戻ったらお礼を言わなきゃならないだろう。
お湯が沸いたのでお茶を淹れ、レイはホットミルクを作ったら、早速食べる。
「「いただきます」」
「アゥン!」
二人と一匹で食事の挨拶をしたら、早速料理に手を伸ばす。
「うん、どの料理も美味しい!」
冷めても美味しいというのは結構技術がいるのだが、むしろ冷めた方が美味しいかもしれない完成度はさすがプロだ。
ちなみにご主人が作ってくれたかわいいパンケーキを、レイはどうするのかと思って見ていたら、描かれた犬の顔の真ん中にフォークをぶっ刺していた。
――もったいなくて食べられない、なんて気分にはならないんだな、レイ。
こうしてレイにとっては適度な運動&ピクニックな一日だったわけだが。
このレイ無双の犠牲になった大量の魔物は、絶対ギルドで騒ぎになる気がする。
お昼を食べ終えたたアキヒサたちは、もうニケロの街へ戻ることにした。
道中はレイに合わせて歩くため、どうしても移動に時間がかかる。
レイは普通の三歳児に比べれば足が速いのだろうが、体格は普通だ。
なので戦闘モードじゃない時の能力は、普通の幼児に近いのである。
それを急かしても仕方ないので、のんびり歩くことになるわけで。
だから周囲から見たら、すごく呑気にしているように見えるのだろう。
街へ戻る途中の林の浅いエリアで、まだ狩りをしている他の冒険者とすれ違ったわけだけれども。
「おい、あいつら手ぶらだぜ」
「意地悪言わないの、初めての人ってそんなもんよ」
「格好つけて奥まで行ったくせになぁ」
若い冒険者たちがクスクスと笑いながら、色々言っている。
そんな彼らを、レイがじぃーっと見ているわけで。
「レイ、知らんぷりだよ」
アキヒサが行きと同じように声をかけると、レイは「わかっているぞ」と言いたげに見上げてきた。
まあこちらは獲物を全部鞄に入れているのだから、傍目にはなにも持っていないように見えるし、そう思われるだろう。それをいちいち彼らに説明するのは面倒だし、第一そうしなきゃいけない義理は無い。
というわけで、ここは無視で素通りが一番無難だ。
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