第68話 レイがはしゃげば死屍累々
「僕らがここにいるのは、さすがにマズいか?」
アキヒサは周囲の状況を見て、そう呟く。
たぶんレイだったら、初心者用の魔物を全て狩り尽くす気がするのだ。
それは他の初心者の迷惑だろう。
というわけで。
「レイ、奥に行こうか」
「おく」
アキヒサはレイとシロを連れて林の奥へ行くことにした。
そんなアキヒサたちを、他の子ども冒険者たちはみんな興味津々で見ていた。
なにせド素人感満載のアキヒサが、幼児と子犬を連れているのだから、若干馬鹿にするような視線になるのも無理はないと思う。
「おい……」
「なにあれ」
「奥へ行く気だ」
「馬鹿なんじゃないのか?」
今もアキヒサたちの行動についてヒソヒソとしているのが耳に入る。
幼児を連れて奥へ行くのが自殺行為に見えるのも、まあ分かる。
こんなことは実に些細な行き違いなのだろうが、これを些細に思えない存在が若干一名いた。
「……」
レイが彼らの態度を悪意認定したのか、身構えるような体勢をとっている。
――いやいや、攻撃しちゃダメだからな⁉
魔物を狩る前に初心者たちを狩りに行きそうなレイに、アキヒサはしゃがんで目を合わせてから言い聞かせる。
「レイ、僕らの事を知らない人が勝手に言っているだけだって。
気にしないでこっちだって知らんぷりしようか」
「しらんぷり」
アキヒサの説得にレイは若干渋々そうながらも同意してくれたようで、こっくり頷くと構えを解く。
――納得してくれて良かった!
ここで彼らと喧嘩になったら、レベル差で酷いことになっただろう。
居心地悪い空間はさっさと通り過ぎてしまおうと、アキヒサは子ども冒険者たちの視線を集めつつ、さっさと林の奥へ向かう。
林の中なんて場所はどこを向いても似たような景色なため、それこそ初心者は迷うのだろう。
けれどアキヒサにはパネル地図という強い味方があるのだ。
おかげで迷わずに一直線に奥のエリアへと向かうことができた。
ある程度進むと、子ども冒険者たちの姿が見えなくなったので安心だろう。
なにせ近くに誰かがいたら、うっかりレイの攻撃の煽りを受けそうで怖いのだ。
「よぅしレイ、ちゃちゃっと魔物を狩って、早めに戻ろうか」
このアキヒサの言葉が合図となった。
レイはスイッチが入ったように戦闘モードとなり、木々の隙間に飛び込んでいく。
――あ、そっちに魔物が数体いるな。
相変わらずレイの気配察知スキルは、アキヒサの探索スキルよりも精度がいい。
「あんまり遠くに行くなよ~」
そう声をかけてはみるが、ニール曰くこの辺りは初心者を脱した冒険者の肩慣らしエリアらしいし、そう心配することもないだろう。
むしろ魔物が可哀想かもしれない。
こうしてレイがいる方から「ズゴォン!」やら「バゴォン!」やらすごい音が響いてきて、探索スキル越しに魔物相手に無双しているのが見て取れている間に、アキヒサはこちらも探索スキルで採取物を見つけながら、たまにレイ無双から逃げて来た魔物を狩る作業だ。
「アン!」
「お、手伝ってくれるのか? ありがとうなシロ」
シロも採取の手伝いで、薬草を採るのに地面を掘ってくれている。
そして初めて見る薬草や木の実をいくつか採ったところで、レイが手ぶらで戻って来た。
「お帰りレイ、怪我とかはしてないか?」
ざっと見て怪我らしきものはないものの、一応確認をすると、フルフルと首を横に振る。
「……」
そして無言で近付き、クイクイとアキヒサの服を引っぱる。
「たくさんありすぎて、持ってこれなかったのか?」
アキヒサが尋ねると、レイがコックリと頷く。
それはまた、ずいぶんとはしゃいじゃったものだ。
とにかくアキヒサはレイについて行って退治された魔物を回収に向かうと、まああるわあるわ。
死屍累々とはまさにこのことだ。
――しかも一番奥にあるの、アレって竜みたいなんだけど?
これは、こんな初心者エリアの近くにいていい魔物なのだろうか?
そんな疑問は置いておいて、まずは鑑定だ。
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アースドラゴン
ドラゴンという名だが、ドラゴン種ではない。
鱗のような硬い表皮が、昔の人にドラゴンだと勘違いさせた。
土の中に潜むことを好み、性格は穏やか。しかし臆病でもあるため、ちょっとした刺激でパニックになる。
ドラゴンではないため、飛翼がなく飛べない。
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なるほど、ドラゴンではなくて、でっかいモグラみたいなヤツらしい。
――だったらこんなところにいてもおかしくない、のかな?
でもこれだけデカいと、プレ初心者の手には負えない気がする。
アキヒサとしては色々と疑問はあるものの、とにかく全部まるっと回収することにした。
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