第67話 依頼を受ける

ニールから困っていないかを尋ねられていることだし、アキヒサは丁度いいので聞いてみることにした。


「あの、この依頼って、もう持っているものを出してもいいんですかね?」


「ええ、そのあたりは常時依頼ですので、事後承諾でも構いません」


アキヒサの質問に、ニールはニコリと微笑んでそう答えてくれた。

 なるほど、常時依頼というものがあるらしい。


「じゃあ、これを受けます」


「では、こちらへどうぞ」


というわけでニールに連れられてカウンターに移動したアキヒサは、早速鞄から薬草をドサッと束で出す。

 見つけた場所に丁度群生していたものである。


「これでいいですか?」


「いいですか」


アキヒサと真似をして尋ねるレイだが、何故かカウンターに置かれた薬草を見たニールが固まる。


 ――どうかしたのか? ちょっと欲しいものとは違うとか?


 この間が不安になっていると、やがてニールが再起動した。


「……多いですね、これは見つけるのが難しいはずなのですが」


どうやらニールは量が多くて驚いたようだ。


「しかも根に土がついたままだということは、買って仕入れたわけでもなさそうだ」


「あれ、買うのもいいんですか?」


自力で採取が冒険者の仕事だと、アキヒサは勝手に思っていたのだが。

 これに、ニールはまたもやニコリと笑って答える。


「ええ、入手方法は厳密に決められていませんので。

 ですが通常、買う方はいませんね、コストがかかりますから」


 ――そりゃそうだ。


 自力で採ったら、自分の労力以外のコストは無料なのだから。

 もちろん、盗品であるかはチェックするとのことだった。

 そして結果として、薬草は良い値段で売れた。

 これで冒険者としての初仕事完了なのだが、アキヒサは全く仕事をした気がしない。

 今日は仕事をするぞ! と朝から気合を入れていたので、これで終わりなのはなんだか寂しい。


 ――あ、でも薬草に常時依頼があるってことは……。


「あの、魔物なんかを倒した場合、依頼を受けていなくても持ってきていいんですか?」


アキヒサの疑問に、ニールは「もちろんです」と応じる。


「街や街道周辺の魔物駆除は常時依頼ですから。

 駆除報酬は微々たるものですが、逆に素材の買取の際にギルドに納める手数料は格安になっていますので、なかなかお得ですよ」


そう親切に教えてくれたニールについでだからと、冒険者としての注意点もざっと聞いてみた。

 なにせアキヒサらがギルドカードを手に入れた時の状況がアレだったため、ロクに説明を受けていないのである。


「そう言えばそうでした、こちらの落ち度ですね」


説明不足を謝罪するニール曰く、依頼は掲示板の依頼書を持ってきて受けるので早い者勝ちで、たまに指名依頼というものがあるという。

 あとギルドカードの再発行には銀貨一枚、冒険者同士での争いにはペナルティがあり、依頼を受けずに放置するとギルドカードは失効、などを教えてくれた。

 こうして大体の話を聞いたところで、早速冒険者仕事に出かけることにしよう。


「よぅしレイ、じゃあ適当に魔物退治をしに行こうか」


「たいじ」


「キャン!」


アキヒサの呼びかけに、レイとシロも乗り気で返事をする。

 こうして、アキヒサらは街の外へ繰り出すこととなった。



そんなこんなで出立したアキヒサたちだったが、現在ニケロの街から一時間程歩いた所にある林へとやってきている。

 林の向こうは山へと続いていて、結構険しそうな山だ。

 この林の手前のエリアは、初心者向けの採取物や魔物が生息しているとニールに教えられた。

 しかし奥へ行くと急に手ごわい魔物が出るようになり、山は高ランク者でないと難しいらしい。

 うっかり初心者が入ったらまず生きて戻れないだろうとのことで、そのあたりの境界の見極めも、冒険者には大切な能力だという。

 とりあえずアキヒサたちも、今日はここで色々採ったり獲ったりしてみることにした。


「でも、人が多いなぁ」


林の手前の初心者エリアは、若いというか、まるっきり子どもの姿を多く見かける。

 装備もあまり揃っていなくて、本当に初心者なのだろう。


 ――まあ装備面で言えば、僕らも似たようなものか。


 アキヒサはコンピューターが用意した装備のままだし、レイに至っては防具がない。

 レイには近いうちに揃えてやろうとは思うのだが、いかんせんサイズが合う市販品があるとは思えず、そうなるとオーダーメイドだ。

 こういうものは安物買いの銭失いになったら目も当てられないことだし、どこかいい店があったら作ろうかと考えているのだ。

 装備のことはともかくとして、今は仕事だ。

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