第66話 ブリュネとパンケーキ

 ともあれ、焼きあがったパンケーキを持って、先程の部屋へ戻って食べることにした。


「やっぱり美味しいわねぇ、自家製ジャムをつけたいわ」


出来立てを笑顔で、しかし上品に食べながら、ブリュネがそんなことを言う。

 そう言えばブリュネは、園芸のスキルが高かったはず。


「もしかしてジャムって、材料から手作りなんですか?」


アキヒサの質問に、ブリュネが「あら、鋭いわね」と返す。


「そうよぉ、あたしが手間暇かけて育てた分、余計に美味しく感じるのよねぇ」


「それはわかります」


しみじみと言うブリュネに、アキヒサも頷く。

 施設では敷地にある畑でさつまいもを育てていたのだが、自分で採ったさつまいもは多少形が悪くても特別な味がしたものだ。

 アキヒサが同意したことが嬉しかったのか、ブリュネが「いいことを思い付いた!」という顔で告げてくる。


「色々と教えてくれたお礼に、今度ジャムを持ってきてアゲル。

 お裾分けしているご近所さんにも評判なんだから」


自慢気なブリュネだが、園芸スキルが高いのならそれだけ手をかけているということで。

 きっと作物の出来もいいのだろう。


「そうだわ!

 レイちゃん、今度アタシの農園を見に来る?

 小さいけど、たくさんの種類を育てているんだから。

 収穫作業って楽しいわよぉ」


まだ朝ご飯を食べたばかりの時間なのでミニミニサイズのパンケーキを食べているレイに、ブリュネがそんな提案をする。


「……?」


レイはなにを言われているのか、いまいちわかっていない様子で、小首をかしげながらパンケーキをモグモグしている。

 恐らくは農園というのがわからないのだろう。

 ちなみにその足元で、シロが一生懸命にネジネジを元に戻そうと奮闘中だ。


「レイ、リンク村の人たちがお野菜とかを育てていただろう?

 ああいうのを、ブリュネさんもやっていて、レイもやってみないかってさ」


「おやさい」


レイはやっとわかったという顔でそう言う。


 ――そう言えば、せっかくあんな大自然の中にいたのに、畑見学をさせてもらっていなかったな。


 森で採取はだんだん慣れたが、畑仕事はまた別だろう。

 日本でも子育てには食育が大事だと言われていたし、レイにも食べ物が出来るまでを見せてあげたいと思うのだ。

こういう地道な経験が、戦闘狂化を防ぐ方法だろう。


「レイ、せっかくだからお野菜が採れるところを見学に行かせてもらおうか?」


「おやさい、けんがく」


「じゃあ決まりね! 今度アタシが休みの日に招待するわ」


アキヒサたちの会話を聞いて、ブリュネがそう告げる。

 こうしてブリュネと収穫体験の約束をして、この場はお開きとなった。


 ――よし、今日こそは依頼を受けるぞ!



ブリュネと話し込んでいる内に人がすっかり少なくなっていて、カウンター前はガランと空いていた。

 アキヒサはそのカウンター横の掲示板を見に行く。昨日はここで教会関係者に絡まれたわけだが、今日は見当たらないので落ち着いて探せるだろう。


「レイ、お仕事を探そうか」


「おしごと」


まだ字を読めないレイだが、それでも見たいかと思って抱えてあげて、一緒に掲示板の張り紙を覗く。


「どれにしようかなぁ」


旨味がある仕事は当然とっくにとられているわけで、残っているのは冒険者になりたてのアキヒサたちだと受けられないような、高ランクのものばかりだ。

 ちなみに冒険者にはランクがあって、一級から始まって五級が最上位だ。

 たまに五級越えが出たら伝説級とされるらしい。

 このランクはギルドカードに星のマークで示されていて、受付で身の丈に合わない依頼を受けられないようになっているみたいである。

 なので登録したてのアキヒサたちは一級で、依頼を受けられるのは一つ上の二級までらしい。


「うーん、どうするかなぁ」


悩みながら掲示板を眺めていると。


「うん?」


掲示板の隅の方にランクの書いていない、これまでの道中で見たことのある薬草の採取依頼を見つけた。

 鑑定結果だと確か、貴重な薬の材料だった気がする。

 というか当然採取して持っていた。

 アキヒサがその依頼書の前で考え込んでいると、抱えていたレイがモゾモゾする。


「どうした、レイ」


アキヒサがそう問いかけると。


「なにかお困りですか?」


背後からそう声をかけられたのでアキヒサが振り向けば、ニールが背後に立っていた。

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