第65話 魔術スキルについて
早速アキヒサは鞄からパンケーキの材料を取り出すと、同じく取り出したボウルに全部を入れて『攪拌』する。
ちなみに作るのはフワフワじゃない方だ。
あっという間に混ざり合った材料を見て、ブリュネが感心する。
「へぇ、便利ねぇ!
アタシは料理の細かい作業が面倒で、つい外食で済ませちゃうけど。
料理スキルを覚えて楽をするっていうのはいいわね!」
ブリュネが料理スキルの便利さに食いついた。
これはぜひ、スキルについて広めることができるようになったら、料理人の人たちに使って欲しいものだ。
アキヒサがそんな事を考える一方、ブリュネは出来上がったパンケーキの生地に興味津々だ。
「これがパンケーキの元?
昨日はスキルを試すのに忙しくて、食べに行けなかったのよねぇ」
そう話すブリュネが、すごく食べたそうな顔をしていて。
「……あの、焼きましょうか?」
「いいのっ!?」
このアキヒサの提案に、ブリュネがものすごく食いついてきた。
「じゃあこっちでお願い、この部屋の隣に小さいけど台所があるのよ!」
そう言ってアキヒサたちを案内してくれたのは、アキヒサが日本で一人暮らししていたアパートにあったような小さな台所だった。
ここは普段、お茶を淹れるために使っているらしいが、パンケーキを焼く程度なら十分だろう。
というわけで、アキヒサは竈に火をつけるのに魔術を使う。
「点火」
無事に小さな火が出て、竈の炭に火がついた。
アキヒサはこれをスマートにやったように見せかけているが、かなり集中して小さな火を出したのは言わずともいい話だろう。
「なにそれ!?」
なにもない所から火がついたことに、ブリュネが驚愕する。
そう言えば、魔術スキルについても話が後回しになっていたのだったか。
「これが魔術スキルですよ」
アキヒサは比較的無害な魔術で、「ライト」で光をともしてみせた。
「まだレベルが低いんで、大したことができないんですが。
便利ですよ、特に水が造れることとか」
そう言って、台所にあった鍋に小さな水の球を落とす。
――よしよし、だいぶ魔術に慣れてきたぞ!
もしやこれも、魔術スキルのレベルが上がっているからだろうか?
一方、ブリュネは「ライト」光をしげしげと見ている。
「へぇ、まるで『妖精の灯り』みたいね」
そう話すブリュネによると、なんでも遺跡やダンジョンから発掘して再利用している品の一つに、火をつけるのに必要な道具がなに一つないのに光が灯るという、不思議な道具があるのだそうだ。
――懐中電灯的なヤツかな?
そういう便利道具があるならば、小道具を使って魔術をごまかすことが可能かもしれない。
「となると昨日の氷といい、魔術っていうスキルは『妖精の悪戯』みたいな現象を起こすスキルっていうことかしら?
でも、そんなことが可能なの?」
ブリュネがなかなか鋭い推理をしているところで、火加減がいい感じなので、パンケーキを焼いていくことにしよう。
ジュワァァ……
いつもより高い位置で焼かれるパンケーキに、見えないレイが背伸びしているのを、ブリュネが腕の中のネジネジのシロごと抱えてくれる。
「粉を水と塩だけで溶いて焼くのは見るけど、卵を入れるとこうなるのねぇ」
ブリュネが言っているのは、屋台で食べたガレットみたいな料理のことだろうか?
「ああそれ、昨日屋台で食べました。
パリッとして美味しかったです」
「野菜も肉も一緒に食べられるから、サッサと食べたい時にちょうどいいのよね、アレ」
そんな話をしているうちにも、パンケーキが焼けてくる。
「できました」
美味しそうな匂いを漂わせる焼き立てに、ブリュネが目を細める。
「早いわね。
パンよりも簡単で、しかも温かいなんて素敵だわ。
でも卵とミルクを入れるのは贅沢ね」
どうもこのあたりでは卵が高価らしい。
日本のような養鶏方法はとられておらず、基本自由な環境で飼っているようだ。
だから卵の流通量が少ないのだろう。
ミルクも同様の理由で高価だとか。
――昔は日本でも卵もミルクも高価だったと聞くしなぁ。
となると、二つともリンク村で買いだめしておいてよかったかもしれない。
あそこは小さな村だったから、卵やミルクが手に入りやすかったのだろう。
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