第59話 買い物

「じゃあ、いただきます」


「いただきます」


ベンチの上に食事を並べて、食事の挨拶をしたところで、早

速食べる。

 まずはレイが選んだイビルボアの内臓のスープからだ。


「あ、美味い」


アキヒサは思わず口に出す。

 濃厚でありつつあっさりとした口当たりのスープが、冷えた体に染みるようだ。

 内臓肉は口に入れるとホロホロと崩れる程に柔らかく、レイでも食べられるくらいである。


 ――うん、コレは買って正解だな!


「レイ、美味しいかい?」


「……ん」


隣を見て尋ねると、レイは小さな手でスプーンを持って食べながらコックリと頷く。

 次にガレットみたいな料理も食べてみる。

 焼き立てを買ったので、まだ温かい。

 外の皮がパリッとしていて、中の具も温かいものになっていて、これまた寒い季節にぴったりだ。

 けどこれは夏になると、中の具が冷えたものを売るのだという。


「これも美味しいな」


「おいしい」


大口を開けて食べるアキヒサの真似をしたいのか、レイも「あーん」と口を開けてガレットを頬張っていた。

 ちなみにレイの分はこれもあらかじめシロと半分こに切ってもらっていて、仲良くもぐもぐ食べている。

 このガレットもリンク村では見なかったが、それはこれがテイクアウト料理だからのようだ。

 家で食べるにはやはり黒パンだと、このガレットを売る屋台の人が言っていた。なるほど納得である。

 リンク村の宿で出される料理は、どちらかと言えば上品な味付けがしてあった。

 それもグルーズさんが有名な店の料理人だったのなら、上品な味なのも当然だろう。

 その一方でこの煮込みやガレットは、ジャンクフード的な位置づけになるのだろうと考える。

 アキヒサとしてはどちらも美味しいと思うし、レイにも好き嫌いをせずに食べて欲しい。

 こんな風に美味しく食べつつ、お酒とホットミルクで喉を潤し、お腹が温まったらさっきの冒険者ギルドでの揉め事も、どうでもいいことに思えてくるものだ。



こうして満足な昼食を終えたら、買い物をすることにした。

 特に買いたいのは洋服だ。これから冬になるのだから、当然冬支度が必要である

 リンク村の雑貨屋でも買ってはいるが、あそこでは必要最低限の数しか買えていない。

 その理由として、子どもというのはあっという間に大きくなるものなので、リンク村では子ども服というと、誰かのお下がりなのが基本だったからだ。

 新しい服は特別な日に誂えるものだという話だった。

 故に、子ども服は家族や知り合いの間でグルグルと着回されて、外の人に売るような余剰分などはないのだ。

 それはニケロの街でも同じみたいだが、それでも子ども服というのは売られていた。


 ――レイはせっかく美幼児なんだから、似合うものを色々着せたいじゃないか。


 出会ってまだ短い期間しか経っていないというのに、既に親バカ気味になっているアキヒサであった。

 というわけで色々店を覗いた中でも、良さそうな店を選んで入ってみる。


「いらっしゃいませ~」


女性の店員の声に迎えられたところで、早速服を物色だ。

 できるだけ肌触りがよくて、動くのに邪魔にならないデザインがいいだろう。

 特にレイは普通の三歳児よりも動きが激しいから、機動性は大事だ。


「うーん、これは布地が柔らかいからパジャマにいいかな」


アキヒサがレイに服を当てながら選んでいると、先程の出迎えの声の店員が寄ってきた。

 彼女は見た目は人族っぽいけど、どうなんだろうか? と気になるものの今回は非常事態ではないので、鑑定するのはやめておく。

 そんな事を考えているアキヒサに、店員が話しかけてくる。


「そちらのお坊ちゃまの服をお選びなんですか?」


アキヒサがずっと子ども服のあたりにいるからだろう、そう尋ねられる。


「あ、はいそうです。

 どうせなら似合うものをと思いまして」


「可愛い子ですものねぇ、着飾らせたくなりますよねぇ」


アキヒサの言葉にうんうんと頷く店員が、「そこでですね」と切り出した。


「実はここに並べていない商品があるんですけど、見られますか?

 ああ、別に商品に問題があって下げているわけではないんです。

 ただ当店のデザイナーが趣味に走り過ぎまして。着こなせる子がおらず、結果として売れないため下げていたのです」


そうまくし立てるやいなや、「少々お待ちを!」と言い置いて奥へと駆けて行く。


 ――僕、まだなにも返事していないんだけど。


 けれど急ぐこともないしせっかくだからと、アキヒサは店員が戻るのを待つ。

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