第60話 コスプレ⁉
やがて彼女がその手に洋服の山を抱えて戻って来た。
「どうぞ、ご覧ください!」
そう言って見せてくれたのは、着ぐるみっぽくなっていたり、大人の仕事着をミニサイズにしたデザインのものだったりな服だった。
――これってまさしくアレだ、コスプレ!
アキヒサはその内の一つである、ギャルソンみたいなデザインの服を手に取った。
飲食店の制服をそのままサイズダウンしたみたいに、仕事着としての動きやすさがちゃんと考えられているものだ。
「これはまた、仕事が細かいなぁ」
隣の猟師服っぽいのは毛皮は本物だし、ポケットがいっぱいついている。
どれもが、日本で子ども向けに安価で売られていたような、簡素なつくりのものではない。
あと着ぐるみにはウィングドッグのものがあった。
フードになっている箇所が頭部を模してあり、本物さながらのクオリティだ。
しかもシロよりも精悍なので、大人のウィングドッグなのだろう。
尻尾もリアルなのがついていて、布地の手触りも申し分ない。
シロは「これ、仲間?」と言いたげにこの着ぐるみの周りをグルグルしているし、レイはこのウィングドッグ着ぐるみが気になるようで、じぃーっと見つめている。
「レイ、それ着てみるかい?」
アキヒサの問いかけに、レイはコクコクと頷く。
どうやらすごく着たいようだ。
というわけで、アキヒサは早速レイに試着させてみた。
「うーん、かわいさと凛々しさのバランスがなんとも……」
「そうでしょう?
フードのデザインを敢えてかわいい方に寄せていないのが、ポイントらしいです」
ウイングドッグ着ぐるみ姿のレイにアキヒサが唸っていると、店員の解説が入る。
確かにフードの強面なデザインが、着ているレイのかわいさをより引き立てている。
さらに言えば、敵を見たら突っ込んでいくレイの内面を表しているようにも思える。
もちろん、動きやすさも申し分なさそうだ。
――これは買いだな。
「いくらですか?」
「売れずに困っていたんで、お安くしておきますよ!」
尋ねるアキヒサにそんなことを言う店員が提示した価格は、普通の服と変わらない金額だった。
これは素材に拘っていそうだから本当はもっと高いと思うのだが、よほど売れずに残っていたのだろうか?それに日本みたいな仮装を楽しむコスプレ文化が下地にないと、買うにはハードルが高いのかもしれない。
お金持ち向けには受けそうに思うが、そうした階級に人たちが来るにはここは庶民的な店だ。
――デザイナーは、なんでこの店でこの服を作ったんだろう?
謎であるが、アキヒサとしてはかわいいし安いし、レイもシロとお揃いになれて喜んでいるみたいだしで、やはり買うことにした。
ついでに大人の仕事着シリーズ数着も一緒に。
もちろん普通の服も買ったし、あとアキヒサの分もちゃんと買った。
「お買い上げどうも!」
在庫が捌けてホクホク顔な店員さんに見送られ、店を後にした。
……レイがウイングドッグの着ぐるみ姿のままで。
レイはどうもこれが気に入ったようで、頑として脱がなかった。
無表情なのは変わらないが、雰囲気はルンルンのようで、足元が弾んでいる。
ウイングドッグの子どもを抱いている、ウィングドッグ着ぐるみを来た幼児は、目立つことこの上ない。
当然周囲から好奇の視線を集めているものの、本人は知ったことではない様子で、実に大物だ。
こうしてアキヒサたちが人目を惹きながら宿へ戻る途中、派手なキンキンキラキラの建物を見つけた。
なんの建物かは、建物の前で演説しているズルズルローブの人物を見ればわかった。
冒険者ギルドで絡まれた、あの司祭女と同じ格好である。
――ここが教会か!?
その派手な成金趣味の建物は、神聖さや神々しさとは反発しているように見えてしまう。
アキヒサはココに出入りしている所を、自分まで成金趣味だと思われそうで、恥ずかしくて誰かに見られたくない気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます