第58話 屋台めぐり
――ははぁ、なるほどね。
今の流れで、アキヒサはピンと来る。
教会はどういうシステムでスキルを売っているのかと疑問だったが、もしかしてこの観察というスキルは、鑑定の下位互換のスキルなのかもしれない。
となるとこの観察スキルで相手のスキルを探っていたのだろう。
そして既に持っているスキルを売りつければいいのだ。
買った方もスキルがあると自覚できた方が伸びるだろうし、日本でもどんな技術だって、伸ばすべき技術を意識するのは大事だ。
そしてアキヒサのスキルもいつものように覗こうとしたが、この様子だとテータスが見えなかったようだ。
もしかして教会のスキルリストとは、この観察スキル持ちの連中が覗けたスキルで構成されているのではないだろうか?
そして観察スキルは鑑定スキルと違って、自分よりもレベルが上のものは見えないのだとしたら、集まるスキルは自然と初心者向けのスキルばかりになってしまうだろう。
こんな風に初心者ばかりをカモにしていると、スキルレベルも上がらないという悪循環に陥る。
だから彼女は本人のレベルもスキルレベルも低いのだろう。
話術レベルだけが高いので、口先三寸で言いくるめるのが得意だということが窺える。
――関わらない方がいいな。
なにせアキヒサは、昔からセールスの類を相手にするのが苦手なのだ。
ともあれ、アキヒサはこうなったらもう仕事をする気がなくなってきた。
「用事がないなら、もう行っていいですか? レイ、今日は観光しようか」
「かんこー」
「え、ちょっと……」
というわけでアキヒサたちはその女性を放置して、冒険者ギルドを後にしたのだった。
そんなこんなで冒険者ギルドでのゴタゴタの後。
アキヒサたちはニケロの街の観光を楽しむことにした。
ニケロの街はこの地方で一番大きな街らしい。
中央の大通りには屋台が並んでいて、どこからも美味しそうな匂いが漂ってくる。
人々はそれぞれの屋台で買ったものを手に、そこかしこに置いてあるベンチに座ったりして、思い思いに寛いでいるのが見て取れた。
今の季節は冬に向かっているところで、屋台のメニューも温かいものが主流のようだ。あとはお酒とかだね。
「ちょうどいいから僕たちもここで昼食にしようか。
レイ、どれが食べたい?」
レイが興味を示したものを買ってみようと、尋ねてみると。
「……」
レイが無言で指さしたのは、イビルボアの内臓の煮込みをを売っている屋台だった。
――三歳児にしては渋いチョイスだな……。
けれど食欲をそそる匂いではあるので、この匂いに釣られたのだろう。
レイの腕の中で、シロもフンフンと鼻を動かしている。
その屋台へ近付くと、店主が大なべをかき混ぜているのが見える。
鍋の中身はブイヨンのようなスープで内臓が煮込まれていて、処理がいいようで臭みがない。
「らっしゃい、見ない顔だなニィちゃん」
「はい、昨日この街に着いたばかりです」
屋台のおじさんに話しかけられ、アキヒサはそう応じる。
「温まりそうな料理ですね」
「おうよ、このあたりじゃあ冬の定番料理だぞ」
なるほど、ご当地料理ならば食べてみないといけないだろう。
「それ、二つください」
「あいよ、なんか器は持ってるか?
だったら値引きするぜ」
用意している木の器で買ってもいいし、鍋や器を持ってきたらそれに盛っているらしい。
ちなみに店の器も持ち帰って次に使うか、リサイクルのために返すかだそうで、使い捨てという考え方がないあたりがエコだ。
では持っているものに入れてもらおうとアキヒサが器を出すと、レイの器が小さいからと、シロ用にもう一つおまけしてくれた。
それらを持っていると両手が塞がるため、店から離れるとすぐに隠れて温かい器を鞄に仕舞う。
こうしてレイお目当ての料理を買ったら、他にも買おうと屋台を覗く。
結果、ガレットみたいなライ麦粉の生地を薄く焼いて野菜などを包んだものと、飲み物をアキヒサはお酒、レイはホットミルクを買う。
それらを持って、ちょっと離れた場所の人目が避けられるベンチへ座った。
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