第57話 絡まれた

 色々と気になることが出たものの、ブリュネはとにかく自分のスキルのことが気になって仕方がないらしい。


「すぐにでも色々と検証したいのよ!」


ということで、とりあえず話し合いはお開きとなり、今までの話――特にスキルの話は口外厳禁な上で、また明日に改めて話したいと告げられた。


「もしこの話が外に出たら、アンタ教会から命を狙われるかもね?」


ブリュネに迫力満点な顔でそう脅されて、アキヒサはチビりそうなくらいに怖かったのは言うまでもない。

 けれどそもそも話の始まりだった、魔術スキルのことに全く触れてない。

 アキヒサとしては忘れてくれると嬉しかったのだが、ブリュネはこちらもちゃんと覚えていたようで、「その話も明日ね」と釘を刺されてしまった。

 こうしてアキヒサたちがやっと解放され頃には、結構時間が経っている。


「はぁ~、登録だけのはずだったのに、えらく時間を取られちゃったよ」


アキヒサがそうぼやきながら、シロを抱えたレイを連れてカウンターのあるホールへ戻ると、そこは閑散としていた。

 皆仕事に出払ったんだろう、数人の姿が見受けられる程度だ。


 ――でもまだギリギリ午前中だし、今からでも近場の仕事だったら受けられるかな?


「とりあえず、どんな仕事があるのか見てみようか、レイ」


「おしごと」


アキヒサがそう言うと、レイもやる気があるようでコックリと頷く。

 というわけで、アキヒサたちは受付の人に教えてもらって、依頼書が貼ってあるという掲示板を見に行った。

 掲示板の依頼書には、子供向けのお遣い案件から長期の護衛案件まで、まだまだ色々なものがある。

 依頼書には星のマークがあって、この星の数は仕事の難しさだろうか?

 そして今残っているのは、星が一つか五つという、両極端なものばかりだった。


「どんなのがいいかなぁ」


アキヒサがレイにも見えるようにと「よいしょっ」と抱えて依頼書を一枚一枚見ていると。


「……」


レイが腕の中でモゾっと動いた。

 「なんだ、トイレか?」とアキヒサが思った時。


「もしや、冒険者になりたてですか?」


背後から突然、女の声で話しかけられた。


 ――うぉ、ビビった⁉


 誰かに接近されていることに全く気付かなかったアキヒサが驚いて振り返ると、ホールに数人いたうちの一人がいつの間にか近くに来ていた。

 その相手はズルズルとしたローブを着ていて、全く冒険者っぽくない。

 ゲームなどでの魔法使い職や僧侶職はこんな格好をしているが、リアルだと動き辛いことこの上ないし、移動に向かないだろう。


 ――なんだろう、この人?


 アキヒサはつい先程鑑定を多用すまいとい思ったばかりだが、さすがにこの状況は怪しいので鑑定をかけてみる。

 すると、何者かがすぐにわかった。


~~~

名 前 ビビ・テンス(人族)

性 別 女性

年 齢 23歳

職 業 司祭

レベル 5

スキル 観察レベル9 話術レベル25

~~


噂をすれば影、司祭とは明らかに教会関係者だろう。


 ――スキルの話術はなんとなくわかるけど、観察ってなんだ?


 アキヒサが無言で考えていると、相手はニコニコ顔で話をしてくる。


「どうでしょう、冒険者として成功するのに、スキルの力は絶大ですよ?

 欲しくありませんか?」


「え、いや……」


アキヒサが必要ないと断ろうとするも、向こうは勝手に話を進めてしまう。


「大丈夫、誰にでもスキルは使えます。

 あなたに向いたスキルを、今から特別に無料で見て差し上げましょう」


彼女がそう言って仰々しい仕草でポーズをとったかと思ったら、アキヒサには小石を弾いたような感覚がした。


「うわっ!?」


そして、何故か相手が突然尻もちをついた。


「なによ今のは!? それに、なにも見えない……」


そして必死に目を凝らしてアキヒサたちの方を見てくる。

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