第56話 スキルとは
職業が「異世界人」だったのが、「冒険者」になっている。
どうやら「異世界人」というのはスタート時ステータスのデフォルトだったようだ。
それにスキルは全体的に成長しているが、料理スキルの伸びが特にいい。
やはり料理はスキルを使う回数が多いからだろう。
「本当だワ、鑑定なんていうスキルがある。
これも教会のスキル一覧にはないものよ。
どういうスキルなのかしら?」
「商店が品物を鑑定するようなものですかね?」
アキヒサのステータスを見ながら、ブリュネとニールがそんなことを言い合っている。
ブリュネは鑑定スキルについて知りたいらしいが、登録盤にはアキヒサのように知りたいことに答えてくれる機能まではないようだった。
これは鑑定スキルゆえなのか、それともあのコンピューターからの異世界人であるアキヒサに対するサービス機能なのか、そこは定かではない。
この世界の鑑定スキル持ちと比べればわかるだろう。
「そうだ! アキヒサさん、レイくんの情報も見てもいいですか?
あの強さはどういうことか、分かるとギルドとしても嬉しいのですが」
ニールさんにそう言われ、アキヒサは「いいですよ」とあっさり頷いた。
――ここで拒否ったら怪しいもんな。
というわけで出た、レイのステータスは以下の通りだ。
~~~
名 前 レイ
性 別 男性
年 齢 3歳
職 業 ****
レベル 12
スキル ***** 気配察知レベル100(最大値) 採取レベル2
~~~
レイは注意事項が表示されていないのと、生体兵器関連の情報が文字化けしていた。
システムがバグったのか、そもそもそういう仕様なのか、そこも定かではない。
だからこそ、アキヒサは許可を出したのである。
レイに新たに採取スキルが生えているのは、アキヒサの真似をして草を毟っていたおかげだろう。
文字化けについては、ブリュネたちは特に気にならなかったようだ。
それよりも――
「アナタよりもレイちゃんの方がレベルが上なのね、ビックリだけれど納得だワ」
――そこな⁉
ブリュネの指摘は、実はアキヒサもビックリだった。
アキヒサとレイはスタートがお互いにレベル1からだったはずなのに、既に倍のレベル差がついていた。
やはり魔物相手に無双をした結果だろう。
アキヒサの方は、採取などでの総合的な行動を計算してのレベルアップだったと考えられる。
これではますます寄生プレイっぽくて、アキヒサとしては落ち込む。
――今度から、少しレイから獲物を分けてもらおう。
アキヒサがそんなことを考えている間、ブリュネとニールが話し合っている。
「『気配察知』っていうのは、まあ字面でわかるワね。
それが最大値だなんて、まあ納得かもね」
「いやいや、それを言うならトツギさんの『精神攻撃耐性』ですよ。
見るからに不穏そうではないですか。
ああ見えて、過酷な修行をこなしてきているのでは?」
レイはともかくとして、社畜は過酷な修行だったのだろうか?
まあ、確かに修行といえば修行だけれど、その後になにも得ることがない空しい修行だ。
こんな感じで、一通りああだこうだと話し合った二人が落ち着いた頃には、レイはアキヒサがおやつ後の暇つぶしに出してやった積み木でシロの形を完成させていた。
特に羽の部分が工夫されていて、なかなかにセンスがある三歳児である。
「なるほど、スキルを買うんじゃなくて、覚える。
そして成長する。
なにもかも考えたこともないけれど、これだと色々と納得できることがあるワ」
「ですね、これまで謎だったことがスッキリします」
なんだか理解が早い二人に、アキヒサの方が驚いてしまう。
「あの、そんなに素直に信じてしまうんですか?」
――普通、初めて直面した文化みたいなのって、もっと戸惑うんじゃないか?
なのに二人とも呑み込みが早過ぎだろうと言外に言うアキヒサに、ブリュネは「そりゃあそうよ」と返す。
「だって、辻褄が合うもの。
兵士になって剣のスキルを買っても、ものになる人とそうでない人が出てくるのよ。
その差はなんなのかずっと不明だったけれど、これだと説明がつくワ」
そんなブリュネの話は、とアキヒサならば「なるほど、そんなこともあるかな」思えることだ。
アキヒサだってスキルというものを、そう色々と検証しているわけではない。
だが人は同じ作業をしていても、覚えがいい人とそうではない人が出てくるものだ。
そうして覚えがいい人が、スキルになりやすいしレベルも上がりやすいんじゃないだろうか?
一方で覚えが悪い人は、そもそもスキルにすらならないこともあるのだろう。
だいたいスキルを売っているという教会は、どうやっているのだろう?
アキヒサのそんな疑問に、ブリュネは「さぁ? そんなの不思議に思ったこともないわね」と言って肩を竦める。
どんな経緯で、「教会でスキルを買う」というシステムが出来上がったのか?
やはり非常に気になるところだ。
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