第53話 妖精、再び
それから場所を移動して、再びさっきの部屋――ブリュネの執務室へとやって来て、再びソファーにブリュネと向き合って座っている。
「で、アナタってばなにをしたの?
あんな変な現象を起こしたら、他のコたちが『妖精の悪戯か』って怖がるじゃないの」
ここでまたもや言われてしまった、「妖精の悪戯」である。
――けど、そんなに変なことをしたかなぁ?
ここは剣と魔法な異世界だというのに。
一人首を捻るアキヒサであったが、とにかく謝っておく方がいいだろう。
「えっと、あれは魔術スキルですけど、お騒がせしました」
アキヒサがそう言って頭を下げると、ブリュネに怪訝そうな顔をされた。
「マジュツですって?
奇術じゃなくてスキル?
そんなもの、教会が売っているスキルリストにあったかしら?」
「……はい?」
今度はアキヒサの方が驚く。
「スキルリスト、ですか?
もしかしてそのリストにあるものしか、スキルが手に入らないとかだったりします?」
「……?
そんなの常識じゃないの。あ、さてはアナタ」
アキヒサの質問を聞いたブリュネが、眉をひそめてちょっと睨むようにしてくる。
「教会以外でスキルの入手をもちかけられたの?
知っているだろうけど一応注意しておくケド、それって教会の取り締まり対象よ?」
異世界初心者には全く初耳の話だが、なんだか不穏な話である。
――なにその「取り締まり対象」って、宗教裁判みたいなのにかけられたりするのか?
異世界とは怖いこともあるようだ。これはスキルについて、考え無しに発言するのは控えた方がよさそうな感じだった。
ちなみに、こんなやり取りをしている横では、レイがおやつのパンケーキをモグモグしている。
運動したらお腹が減ったらしい。
ブリュネがレイの食べているパンケーキが気になるようで、チラチラ視線をやっていた。
――まあ、黒パンを見慣れていると珍しいよな。
「食べますか?」
「いただくわ」
アキヒサの勧めに、ブリュネが間髪入れずに頷く。
といういことで、ブリュネにも一枚あげることにして、鞄に焼き立てで仕舞っていたパンケーキを、皿とフォークも一緒に出す。
妖精の鞄のことは、レイのパンケーキを出した時点でバレていた。
「どうぞ」
ブリュネはアキヒサが差し出した皿を受け取り、添えられたフォークで上品に一口に分けて、パクリと口に入れる。
「美味しいわね」
すると険しかった表情がふにゃりと緩む。
「ジャムとかクリームをのせて食べたら、さらに美味しいですよ」
アキヒサはそう言い添える。
ブリュネなら、お洒落に盛り付けしたパンケーキが似合うだろう。
「なるほど、それは美味しそうだわ。
ぜひ、コレをどこで買えるのか教えてほしいんだけど」
どうやら気に入ったらしいブリュネが、そう尋ねてくる。
「あ、それなら僕の泊まっている宿屋の食堂へどうぞ」
宿でパンケーキのストックを作った際、レシピは既に流れている。
パンよりも短時間で作れて、なおかつ固くないので子どもと年寄りに人気が出るだろうと、ご主人が言っていた。
「どこの宿?」
「とまり木亭です」
早速行く気らしく、宿の名前を聞かれたので答えると、「ああ、あそこね」とブリュネが呟く。
「アタシも食堂によく行くけど、こんなメニューあったかしら?」
「新作なんです」
首を捻るブリュネに、そう言っておく。
たぶん今日にでもメニューになっているはずだ。
なにせ材料も作り方も簡単だから。
そしてご主人プロデュースで、すっごくお洒落なパンケーキになっている気がする。
そんなパンケーキの話はともかくとして。
――魔術が理解されないって、どういうことだ?
あのコンピューターの話だと、魔術は「なんとか生きていける」レベルのスキルだという話だったのに、少々話が違っているような……
アキヒサの頭の中が疑問符でいっぱいになってきた時。
「失礼します」
さっきの眼鏡の男が、カードとあのタブレットを持って部屋に入って来た。
「そちらのレイくんの登録は、こちらで作業をさせていただきます。
カウンターでの作業は人目をひきまして、少々騒ぎになりましたもので」
どうやら幼児が登録するらしいということで、野次馬が集ってしまったようだ。
「ああ、それがいいかもしれないわね」
ブリュネも同意したので、レイの冒険者カードをこの場で作ってくれることになった。
彼はタブレットを色々と操作してから、なにも書いてない真っ白なカードをタブレットにかざすと、シャラン♪ と涼やかな音が鳴る。
「できました」
そう言った彼が差し出したカードには、レイの写真と情報が表示されていた。
――やり方がますます電子機器っぽいな。
アキヒサはやはり、あのタブレットが気になる。
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