第50話 スキルと兵士
「兵士って入隊すれば、格安で剣のスキルを教会から買えるようになるでしょう?
それ目当てで兵士になる輩は結構な人数いるのよね。
そいつらが兵士の質の低下を招いているっていう問題もあるんだけど、まあこの話は置いておくとして」
兵士となって剣のスキルを買ったとしても、その力がメキメキと伸びる人と、全く伸びない人に分かれるのだそうだ。
割安とはいえ決して馬鹿にできない金額を支払った兵士としては、剣のスキルが伸びないとあってはムダ金もいいところだろう。
「周りに当たり散らすようになって、問題を起こして軍をクビになるでしょう?
それでも剣のスキル持ちだっていうんで、それで稼げると思ってココに来るんだけどね」
それでも真面目に取り組めば、ブリュノルドとて兵士時代の問題行動についてはアレコレ言ったりはしないらしい。
けれど、一度堕ちたら自力では立ち直れない人物というのはいるもので。
「ああして酒浸りになって、世の中を恨んで過ごしているってワケ。
不毛よねぇ本当に」
ブリュノルドがそう語りながらため息をつく。
――うーん、スキルかぁ。
ガイルも他の人達も、スキルは教会で買うものだとは言っていたのけれども。
「スキルって、本当に買えているのかなぁ?」
「なぁに?
本当はお金をケチって買っていなかったんじゃないのってこと?」
アキヒサの半ば独り言のような呟きに、ブリュノルドが反応する。
「いえ、そうではなくてですね。
そもそも僕にはその『スキルを買う』っていう感覚がわからなくて」
「まあ、普通に生きている分には、スキルなんて必要ないものですもんねぇ」
アキヒサの言葉に、オネェさんが困ったように微笑む。
アキヒサが言うのはそういうことではないのだが、言葉にするのが難しい。
それにアキヒサとてこのスキルシステムについてイマイチ理解していないのだから、うかつなことは言えないのだ。
だがブリュノルドは剣のスキルを持っていたが、これも兵士になって買ったのだろうか?
「ギルドマスターさんは……」
「ブリュネよ、そう呼んでちょうだい」
名乗られたので、ブリュノルド改めブリュネに、アキヒサは聞いてみた。
「ブリュネさんも、スキルを買ったんですか?」
「そうよ、アタシも兵士から始めて剣のスキルを買ったわ。
お金がある人は頻繁に教会へ行ってスキルを増やすみたいだけど、アタシは生憎そんなものをコレクションする趣味はなくてね」
なるほど、教会でスキルを買うのは人生で一度だけというわけじゃないらしい。
そしてブリュネは剣のスキルしか買っていないという。
けれどブリュネは剣以外のスキルを持っているわけで。
――とすると、どういうことになるのかな?
アキヒサが頭の中をこんがらがらせていた時。
コンコン
部屋のドアがノックされた。
「ブリュノルド、失礼しますよ」
そう言って室内に入って来たのは、眼鏡が知的な男の人だった。
「こちら、ギルドカードです」
彼がそう言ってトレイに乗せているのは、まるで前世の免許証のような写真付きのカードだった。
写真は門で兵士にとられたあの写真で、名前などの情報が載っている。あそこで入力された情報が反映されているのだとしたら、このカードもコンピューター関連のシロモノなのだろうか?
しかしトレイにあるカードはアキヒサ一人分だけだ。
これに、ブリュネさんが眉をひそめる。
「この子の分も用意するように、アタシは言ってなかったかしら?」
低い声で告げるブリュネに、彼が驚く。
「え、本気で言っていたんですか!?」
あの様子だとどうやら本当は、レイの年齢だと駄目なようだ。
「いいのよ、私が許可するわ」
「しかしですね……」
ブリュネがそう言っても、彼はなおも渋る。
それはそうだろう、普通はこんな幼児を戦うこともある仕事に就けようとは思わない。
二人の意見が合わないことで、「これは駄目かな」と考えていたアキヒサだったのだけども。
「そうだ!」
ブリュネが「いいことを思いついた」という顔をして、レイに言った。
「ボウヤ、私と手合わせしない?
それで決めましょうよ!」
「はい?」
この意見に、男が「なに言ってるんだコイツは」という顔をしている。
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