第47話 幼児×酔っ払い=危険!

宿の受付にいた女将さんに場所を聞いて、歩くことしばし。


「ここかぁ、なんかそれっぽい雰囲気かも」


到着したアキヒサは建物を見上げる。

 石造りの二階建てで、剣と盾がモチーフの看板が掛けられている。


 日本で小説とかゲームとかでの冒険者のイメージというと、荒くれ者な感じなのだけれど、この世界だとどうなんだろうか?


 ――ちょっと緊張するなぁ。


 アキヒサはそんなことを考えながら、冒険者ギルドの入り口を開ける。


「なんだよ、もうちょっと高くてもいいだろう!?」


「どうかお願いします!」


「なんかいい仕事ない?」


「おーい、メシ行こうぜ!」


中から、色々と雑多な声が一気に押し寄せてきた。


「うーん、人がいっぱいいるなぁ。

 レイ、シロが踏まれないように、しっかり抱えていてくれな?」


レイは誰かに蹴られたりするような、鈍臭いことにはならないと思うけど、シロはもみくちゃになる気がする。

 片手でアキヒサのコートを握ってもう片手でシロを抱えていたレイは、アキヒサの意見にコックリと頷いてシロを抱え直しているのだが。


「シロの首が締まっているみたいだから、ちょっと手の位置を治そうか」


アキヒサはレイの体勢を整えてやる。

 相変わらずちょっと雑というか、自分の怪力をわかっていないみたいだ。

 そんなこんなをしていよいよ中に入る。

 建物に入ってすぐはホールみたいになっていて、正面に日本の銀行のような長いカウンターがある。

 そこにズラッと人が並んで座っていて、その人たちの前に皆が並んでいる。

 あそこが受付で、仕事を貰う場所なのだろう。

 となると、アキヒサたちもあそこのどこかに並ばなくてはいけないわけで。


 ――さて、じゃあどこへ並ぼうか。


 そんなことを考えてキョロキョロしていると。


「なんだぁ? 邪魔なんだよ!」


背後から男の声が聞こえた。

 後ろを振り返ると、三十代くらいの男が立っていた。

 剣や防具を装備していて、明らかに冒険者だ。


「あ、すみません」


確かにアキヒサたちが入口すぐのところで止まっていたので、邪魔だなと思って移動して、場所を空けた。


「子どもとペット連れたぁ、冒険者ナメてんのかぁ、ああ!?」


けれど男は何故かそのままこちらに絡んできた。


 ――ってこの人酒臭い!? 朝から酔っ払いか!


 宿屋でも聞いてきたが、冒険者ギルドには街の子どもたちも登録していて、街中のお遣いみたいな安全な仕事で小遣いを稼いでいるという。

 だからレイは幼過ぎるだろうが、連れて行っても怒られるということはないという話だった。

 それに冒険者ギルドには依頼をしに来る人もいるんだから、子どもとペット連れだからと理由で絡むのはいかがなものだろうか?

 まあこういう冷静な意見が、酔っ払いに通じるかは謎だ。

 しかし、今のアキヒサが気にするべきはそこではない。

 鬼神スキル持ちが、あからさまに喧嘩を吹っ掛けられたらどうなるか?

 その答えが、目の前で実演されようとしてるのだから。

 レイがシロを宙高くにポーンと放り上げ、目にもとまらぬ速さで床を蹴って跳躍し、男の真横で体勢を整え攻撃態勢に入っている。


 ――コラコラ、ビックベアと同じ威力で攻撃すると、人の頭なんて簡単にグロいことになっちゃうからな!?


「レイ、攻撃止め!」


慌ててアキヒサが声をかけると、レイは攻撃を止めてくれた……のはいいのだが。

 レイは酔っ払い男の肩を軽く蹴って体勢を変え、くるりと宙返りして着地する。


 ……男の頭の上に。


 そしてそのレイの頭の上に放り上げられたシロがパタパタと飛んできて、ふわっと着地する。

 それはまるでトーテムポールだ。

 この様子は、当然この場にいた全員から丸見えなわけで。


 ドゥァハハハハ!


 周囲からドッと笑いが起きる。


「なにやってんだ、おめえはよぉ!」


「かわいくなったじゃねぇか!」


「ボウやはすげぇなぁ、軽業師の子か?」


やんや、やんやと囃し立てる周囲に、その酔っ払いの男はただでさえ酒で赤い顔を、ますます赤くしていく。


「てめぇら、みんな馬鹿にしやがってぇ!」


そう叫んで上半身をブルりと振ると、当然ながらレイとシロはバランスがとれなくなって落ちる。

 それでもスマートに床に着地したレイには、競技なら10.0をあげたい。

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