第46話 料理スキル

 フレンチトーストはともかくとして。

 ご主人が作る他の食事はとっても美味しかった。

 グルーズとはまた違っていて、盛り付けも華やかな見た目だ。


 ――この違いはあれだ、日本のオシャレなレストランで出てくるみたいな、芸術品みたいなの。


 グルーズの料理も色鮮やかで綺麗だとは思ったのだけれど、それはあくまで庶民の食卓に出てくる範囲のものだった。

 この両者の違いは、お土地柄というものなのかもしれない。

 ちなみにここでは、シロ用のごはんもちゃんと用意してもらえた。

 ペットは食堂に入れない店もあると思うのだが、大人しくしているならばいいとのこと。

 そしてご主人はペット用ごはんも手を抜かず、お洒落なお皿が出て来たりする。

 こうして夕食に満足したところで、またご主人にお願いして厨房を借りて、レイのおやつ用のパンケーキを焼かせてもらった。旅の道中でも余計に焼いていたのだけれど、無くなってしまったのだ。

 厨房で片付けをしていたご主人が、こちらにも興味を持った。


「そう言えばパンケーキはリンク村では作らなかったな」


アキヒサはふとそう零す。

 出かける際にはグルーズがレイのためのおやつまで用意してくれていたし、パンケーキは森で休憩時に焼いていたので、宿で焼く隙がなかったのだ。


「そうか、グルーズさんは知らないのか!」


これを聞いたご主人が嬉しそうな顔をして、自分でもパンケーキを試し焼きしてみていた。

 そしてここでも、アキヒサが料理スキルを使うのを見たご主人に驚かれた。

 というか、スキルというものにこんな技があること自体を知らなかったようだ。

 技を知らないとは、ならば人々はなんのためにスキルを欲しがるのだろう?


「そんなにスキルって、皆持っていないんですか?」


アキヒサが質問するのに、ご主人が首を横に振る。


「兵士みたいに補助をもらってスキルを買うならばともかく、それ以外の人はスキルなんて買わないさ。

 兵士以外だと、金持ちが持っているくらいだな」


「なるほど」


アキヒサは頷きつつも、「だけど」と首を捻る。


 ――ご主人にもちゃんと料理スキルがあるんだけどなぁ?


 しかもそこそこレベルが高いし、使えばアキヒサよりもスゴい便利技とかできるはずだ。



そんなことがあった、翌朝。

 朝食にはレイ用に、ご主人が作ったとってもお洒落に盛り付けられたフレンチトーストが出て来た。

 一口サイズのサイコロ上に切られていて、レイに食べやすくなっている。

 アキヒサなんかはその芸術的な出来栄えに、手をつけるのを迷いそうだが、レイはそんなことを全く構うことなく、フォークをフレンチトーストにぶっ刺してモグモグしていた。


「おいしい」


ゴックンした後でそう感想を述べていたので、本当に美味しかったんだろう。


 ――僕も今度作ってもらおう。


 こうやって美味しく朝食を食べたら、次にやることと言えばアレしかない。


「レイ、冒険者ギルドへ行ってみようか」


「ぼーけんしゃぎるど?」


アキヒサが声をかけると、レイが首を傾げる。

 ガイルや兵士から一緒に話を聞いていても、意味がわかっていなかったようだ。

 まあ精神年齢0歳の幼児とは、そんなものだろう。


「冒険者ギルドに行って登録すれば、お仕事を貰えてお金を稼げるんだよ」


「おしごと」


「そう、リンク村で木を運んだみたいなことをするんだ」


このアキヒサの説明でレイなりに理解できたのか、コックリと頷くと、食後の満腹感でウトウトしていたシロの首根っこをひっつかみ、抱え上げる。


「……レイ、荷物じゃないんだから、もう少し優しく抱えてあげようか?」


これはシロ用に、リードみたいなのを作った方がいいのかもしれない。

 というわけでレイにシロの抱え方をレクチャーしてから、冒険者ギルドへ出発したのだった。

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