第44話 旦那さんはすごい人
――にしても、いろんな人種がいるなぁ。
アキヒサは歩きながら感心する。
リンク村では見かけなかった、二足歩行の動物や爬虫類系の人が結構いた。
鑑定してみると、彼らは「獣族」という人たちだ。
ガイルやさっきの兵士が鑑定で「人族」って出ていたので、人族以外がいるのだろうとは思っていた。
けどこうなると、リンク村でもアキヒサが普通に人間――人族だと思って見ていた人も、ひょっとしたら人族じゃなかった可能性もあるのかもしれない。
こんな風に人々を観察しながらたどり着いたのは、二階建ての宿屋だった。
そう大きな建物ではないものの、お洒落な外観で、綺麗な花が店の周囲に飾ってある。
食堂も兼ねているらしくて、宿屋用の入り口と食堂用の入り口とに分かれていた。それだけお客が多いということだろう。
宿の名前は「とまり木亭」、あの旦那さんから聞いた宿の名前だ。
「レイ、ここみたいだ」
アキヒサはそう言いながら、宿屋の入り口から建物へ入る。
「いらっしゃいませ!」
すると日本にいた頃のアキヒサよりも少し年上くらいの美人な女の人が、受付から声をかけてきた。
――ここの女将さんかな?
「僕とこの子……とペット一匹、泊まれますかね?
あ、実は紹介状があるんですけど」
そう言いながら、アキヒサは鞄から取り出した「森のそよ風亭」から貰った紹介状を差し出す。
「あら、誰からかしらね」
彼女はそう言いながら、紹介状を受け取った。
その次の瞬間。
「ってこれ、グルーズさんからじゃないの!?
あなた、あなたーっ!!」
突然驚いた顔になり、その紹介状を掴んで、奥へと行ってしまった。
――えっ? なんだ? どうした?
カウンターに取り残された形になったアキヒサらが、しばしボーッと待っていると。
「ほら、この人たちよ!」
そう言いながら、あの彼女が優しそうな男の人を連れて戻って来た。
彼が訝しそうにアキヒサを見て尋ねる。
「あんたたちかい?
グルーズさんからの紹介状を持って来たっていうのは」
「あ、はいそうです」
彼の質問に、アキヒサは肯定の返事を返す。
ちなみにグルーズさんというのは、「森のそよ風亭」の旦那さんの名前だった。
「リンク村で『森のそよ風亭』という宿屋に滞在しまして。
そこの方から『ニケロの街へ行くなら宿を紹介してやる』って言われまして。
それを貰いました」
「リンク村だと!?」
アキヒサの説明に、彼は仰け反って驚愕する。
「まさか、そんな近くにいたとは……」
そしてガックリと肩を落とす彼の様子に、アキヒサはなんのことかわからず、戸惑うばかりだ。
「あの、それで宿泊はできるんですかね?」
恐る恐る尋ねるアキヒサに、二人はハッとした顔になる。
「もちろんよ!
それにぜひお話を伺いたいわ!」
というわけでよく状況がわからないながらも、とりあえず三日分で前金を払った。
延長したい時は、その都度ということで。
こうして彼女の方に案内された部屋は、落ち着いた雰囲気でまとめられた、居心地のよさそうな室内だった。
明るい光が差し込む窓からは、外の景色がよく見える。
アキヒサたちが荷物を置いて――レイがユーリルの花の植木鉢の置き場所を入念に調節した後、寛いでいると、一旦離れた彼女がお湯を張った桶を持って戻って来た。
「森のそよ風亭」でもそうだったが、このお湯で旅の汚れを落とすのだ。
やはり彼女はこの宿の女将さんで、名前をリーゼといった。
「さっきはごめんなさいね、主人はグルーズさんがどこにいるのか、ずっと探していたものだから」
リーゼさんがそう言って謝る。
「そうなんですか?」
アキヒサは驚く。
それはまた、どういった理由だろうか?
グルーズは特に逃げ隠れをしている風でもなかったし、なにか悪さをしたとかじゃないといいのだが。
――グルーズさんは強面だったけど、いい人だったし。
そんなアキヒサの不安を感じ取ったのか、リーゼさんが「悪い話じゃないのよ」と前置きしてから、説明してくれた。
「うちの主人とグルーズさんは、以前に同じ料理店で働いていたの」
そこは有名な高級料理店らしく、グルーズは料理長だったそうだ。
高級料理店の料理長とは、それは確かにすごい。
日本でもそうした立場の料理人は、一目置かれるものだった。
そしてあのご主人は、そんな料理長を尊敬して慕っていたという。
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