第43話 街に入る
ここで、妖精の鞄はそのまま見せていいものかとアキヒサもちょっと迷ったのだが、これを隠したところで荷物が少ない事が不自然になるので、結局そのまま見せることにする。
「へぇ、いいものを持っているなぁ」
すると兵士は妖精の鞄に驚いたものの、怪しみはしなかった。
高価ではあるが、親の遺産として持っている人がたまにいるのだそうだ。
検査をしながら、兵士が尋ねてくる。
「この街へは、スキルを買うだけか?
仕事を探したりはするのか?」
「ええ、まぁ」
これにアキヒサは曖昧に返答する。
恐らくはそういう理由で田舎から出てくる若者が多いのだろう。
「それなら、冒険者になって荷運びの仕事を引き受ければいいんじゃないか?
妖精の鞄持ちなら、低いコストで荷物運搬ができるから、有難がられるんだぞ?」
「なるほど」
兵士からのアドバイスに、アキヒサは納得顔で頷く。
確かに、リンク村でも木材の運搬で有難がられたし、それにどうせ身分証を得るために、どこかのギルドへ登録しようと思っていたのだ。
アキヒサが自分が商人や職人に向いているとは思えないから、商業ギルドや職人ギルドは考え辛い。
ここは素直に冒険者ギルドに登録するのがよさそうだ。
そんな会話をしながらも、兵士はタブレットでどこかへ問い合わせしていたようで。
「うん、犯罪歴が出てこないな。
二人とも門を通っていいぞ」
やがてそう許可が出たところで、アキヒサは通行税に銀貨二枚を払う。
「レイ、じゃあ行こうか」
アキヒサが促すと、レイはコックリと頷くとシロを抱える。
すると兵士が、そのシロを見て言った。
「ああ、そのペットはトラブルを起こさないよう、ちゃんと見ておくように。
あと、盗られないために首輪をした方がいいぞ」
「なるほど、そうですね」
確かに、日本でもペットはちゃんと管理しておかないとトラブルの元だ。
鞄に手拭い代わりにと買った布があったので、それをバンダナみたいにシロの首に巻いてみた。
――うん、いい感じじゃないか?
「クゥーン?」
シロは首元の布が気になるらしく、しきりに前足で布をカシカシしているが、そのうち慣れてくれるだろう。
「さあ、それじゃあニケロの街へ入ってみようか!」
アキヒサが促すと、レイがコックリと頷いた。
こうして無事門を潜ってニケロの街へ入ると、そこは結構賑わいのある街並みが広がっていた。
建物の雰囲気はレトロなヨーロッパ風といった感じだ。
リンク村では日本での現実と全く違ったので、逆に違和感を覚えることもなかったのだが、ここはちょっと知っている場所に似ているためか、まるで映画のセットに迷い込んだ気持ちになる。
けれど、これは間違いなく現実だ。
これまでは現実離れの連続だったため、あまり郷愁というものを感じなかったアキヒサだけれど、それがニケロの街の光景を目にすると、突然胸に押し寄せるものがあった。
――本当に、異世界なんだなぁ……。
アキヒサがもう戻れない日本を思い出して、一瞬立ち尽くしていると。
クイクイッ
アキヒサのコートの裾が引っ張られる。
下を見ると、レイがシロを抱えていない方の手で、コートの裾を握っていた。
「……」
相変わらず無言なのだが、その無表情な顔に微かにだが「どうしたの?」という感情が見える気がしなくもない。
――こんなちっちゃいレイに、保護者の僕が心配かけるとか……。
アキヒサはもう戻れない場所への未練を、フルフルと首を振って振り切る。
「ちょっとボーッとしちゃったよ、心配かけてごめんな?」
アキヒサが屈んでレイと目を合わせてニコリを笑うと、レイは微かにだがホッとした顔をした。
――しんみりするのは、後だ! 今はやるべきことがある!
「よぅし、まずは宿を探しに行こうか、レイ」
「やど?」
アキヒサがそう提案すると、レイがわからないようで小首を傾げる。
「宿っていうのは、お泊りする場所のことだよ。
『森のそよ風亭』の旦那さんから、せっかく教えてもらった所があるし。
空いているといいね」
「やど、いく」
アキヒサの説明に、レイもコックリと頷く。
そう、リンク村の宿屋で「ニケロの街ならここへ行け」と言われて、紹介状を書いてもらったのだ。
なんでもあの旦那さんが料理人として修業していた時代の弟弟子にあたる人が、経営している店だという。
旦那さんの料理は美味しかったから、そこも期待が持てるんじゃないだろうか?
そんな風にアキヒサは先程とは違って浮き立つ気分で、レイと一緒にニケロの街を歩く。
もちろんレイには迷子防止のために、アキヒサのコートを握ってもらい、その腕にはシロが抱えられている。
ニケロの街は、もちろんリンク村に比べると人が多いが、日本の東京などに比べると断然少ない。
でも、このくらいが歩きやすくていいのかもしれない
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます