第38話 再びの

アキヒサたち一行にペットが加わったところで、昼食休憩を切り上げて、再びニケロの街へ向けて歩き出すことにした。

 天気もいいし、まだモグモグされたショックから立ち直れないでぐったりしているシロを、レイが抱えて歩いている。

 シロは子犬程度の大きさとはいえ、三歳児が抱えるには大きすぎるはずなのだが、レイはまるで小石を抱えているかのように足取りもブレない。

 やはり生体兵器は、普通の三歳児よりも筋力が強いようだ。

 しかしシロは、疲れてぐったりしているのか、レイの強さにおののいてぐったりしているのか、どうにも判断がつけにくくもある。


 ――なにせこれまで出会った魔物から、ことごとくビビられるレイだからなぁ。


 レイにシロを手放す気が今のところないようなので、シロが環境に慣れるしかないだろう。

 アキヒサは心の中でシロに「強く生きろよ」と応援するしかできない。

 そうやって歩いていて、そろそろ今日の宿泊場所を決めなければという時刻になった時だった。


 シュンッ!


 目の前の道の上に突然、人影が現れた。


「あ? あ!」


突然の減少に驚くアキヒサだったが、すぐに見覚えがあることに気付く。


 ――あのわけわからない男!


 そう、異世界生活初っ端で急に襲ってきてわめいて勝手に去っていくという、意味不明さがてんこ盛りな行動をした男であった。

 相変わらずフードを目深に被った陰気な男は、顔が見えないながらもビシッとアキヒサを……というよりも、その足元にいるレイを指差してきた。


「おいキサマ、もう私は振り回されたりしない、この手で終わらせてやる!」


指差された側のレイは、この男をガン無視してシロに構っている。


 ピュ~~


 両者の微妙な空気の間に、風が吹き木の葉を舞わせる。


「……レイ、あの人がなんか言ってるっぽいから、とりあえず話を聞いてあげようか?」


アキヒサはレイに話しかける。

 このままだとアキヒサたちが道を進めな……くもないが、あの男の横を通り過ぎる時に、どんな顔をすればいいのかわからないではないか。

 それに、前回のように突然猛攻撃をしてくるかもしれない。

 そうなったら、テント住宅の外である今、アキヒサに身を守る術がないのだ。

 とりあえずあちらが会話からコミュニケーションを図ろうとしてくれているのなら、それに乗ってやるのが平和な行動だと、アキヒサは思う。


 ――まずは、どういうつもりで僕らに構ってくるのかとか、なにか誤解がないかとかを話し合ってだな……。


 そんな風に考えるアキヒサの一方で。


「……?」


若干面倒くさそうな顔をして男に視線をやるレイは、シロをモフモフするのを中断させられたのが本当に嫌そうだった。

 そのシロは、モフられすぎて全身の毛が逆立っている。

 レイはどれだけ撫で繰り回していたのだろうか?


 ――にしてもなんだろう、このレイの無警戒ぶりは?


 前回は目覚める前のレイに対してあんなに攻撃的だった男であるので、起きたレイにも気配察知の能力でその攻撃性がわかるだろうと思った。

 けれど今のレイは、まるで道端の小石ほどの興味も示さない。

 この状況に、あちらの方が痺れを切らした。


「キサマ、この私になにか言うことがあるだろう!?」


男がレイに怒鳴りつける。


 ――いやいや、三歳児になに言ってんだか。


 「言うことがあるだろう」もなにも、初期化された中身0歳児なレイにとって、この男は初対面なのだ。

 初対面の男に言うことならば「初めまして」くらいだろう。

 そして基本無口なレイは、初対面の人物相手に朗らかに挨拶をする性格ではない。

 すなわち、やることといったら「なんだコイツ?」という目でじぃーっと見るだけだ。

 そんなレイの様子に、男が後ずさっていく。


「……なんだキサマの、その目は?

 きさまがいつも抱えていた憎悪と嫌悪はどうした!?」


 ――いやだから、三歳児になにを求めているんだ、この男は?


 とてもツッコミたいアキヒサだが、前回の猛攻撃の恐怖もあって、安易に口が開けないでいる。

 アキヒサは異世界初心者で、レイだって生体兵器とはいえまだまだ低レベルなのだ。

 変な事をしたらプチっとやられてしまうかもしれない。

 それにレイは中二的成長をしないために努力中なのだから、変な事を吹き込まないでほしい。

 そんな危機感を抱くアキヒサであったが、レイはというと、一人で勝手にショックを受けている男から興味が無くなったのか、またシロをモフモフしはじめた。

 こうして無視をされたことが、どうやら男には相当なショックであったらしい。


「こんなことが、私は、私は……!?」


そう言ったかと思ったら。


 シュンッ!


 男は現れた時と同様に、突然消えた。


「え、マジで?」


アキヒサは呆然とする。

 このほんのちょっとの間での恐怖とか戸惑いとか危機感を、一体どうしてくれるのか?

 それになにをしに来たのだろうか、あの男は?

 そして、またもや鑑定してみるのを忘れてしまったアキヒサであった。

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