第39話 初、テント泊
おかしな邪魔が入ったのに付き合っていたせいで、結構時間が経っていた。
なのでもうここら辺りで夜を過ごすかと思って、アキヒサは辺りを探る。
――テント住宅は出せそうにないな。
今いるあたりは見晴らしがよくて、家が道から丸見えになってしまう。
ここは主要な街道であるというし、実際にアキヒサたちは馬や牛や荷馬車なども結構すれ違った。
そんな道沿いに急に家が出現したら、偶然通った旅人の口から噂になりそうだ。
なので快適な夜は諦めて、ここは普通にテントで野宿にする方がいいだろう。
ちなみにテントは買ってある。
雑貨屋でちょっと前に路銀が尽きた冒険者が売っていったという、「丈夫で設置が簡単なテント」を売ってもらったのだ。
――でももしかして、テントにも「妖精のテント」とかあるのかな?
テント住宅の下位互換的なものがあったら、ぜひ欲しい。
テントであれば堂々と使えるのが魅力だ。
それはともかくとして。
道沿いにいい感じの空き地があったので、そこにテントを張ることにした。
空き地には比較的新しそうな火の跡があって、多分アキヒサらのような旅人がこの場所を使っているのだろう。
アキヒサは早速鞄からテントを出してなんとか設置する。
慣れた人が「簡単」と言ったところで、慣れていないと十分に難しいというのは、どの世界でもお約束であるようだ。
でもこれもアキヒサが慣れていくしかない。
そのテントの前に大きめのシートを広げて、リンク村で購入したテーブルと椅子を出す。
――うん、これだけで寛ぎの空間って感じがするな。
居住性は当然テント住宅には敵うべくもないが、これはこれで旅感があっていいかもしれない。
あとは魔術で枯れ枝に火も起こしてセッティングが出来たところで、早速夕食作りに取り掛かる。
今日はシロが仲間になったお祝いということで、夕食を特別なものにしようかと思う。
明日にはニケロの街へ着くだろうし、リンク村で買い込んだ食材を思いっきり使ってしまおうというのもある。
そうそう、食材と言えば。
ミールブロックとドリンクは、いざという時の貴重な栄養食として取っておくことにしている。
鞄に入れておけば消費期限も問題ないし、なにせあれだけで一食の栄養を賄えるというのは、やはりメリットだ。
そんなこんなで考えたメニューは、イビルボアのポークステーキの香味ソース掛けに、彩野菜のサラダ、それと「森のそよ風亭」の旦那さんお手製ピクルス。
美味しかったから、大瓶一つ分を買ったのだ。
そして主食はズバリ、フワフワパンケーキだ。
これまで主食ははあらかじめ焼いておいたパンケーキと買い込んだ黒パンで済ませていたのだが、レイにいつか作ってあげようと思っていたのだ。
メニューが決まれば、手際よくやっていこう。
アキヒサはかまどを二つ作る。
このかまど作りも魔術で土を成型したもので、魔力を注いで土を触れば、粘土のように簡単にできてしまった。
――これもレベルアップすれば、複雑なものが作れたりするのか?
そう、例えばフィギュアとか。
アキヒサだって、我ながら相変わらず魔術の使い方がおかしいとは思うけれども、便利であればいいのだ。
そのかまどの一つでイビルボアの肉を焼いている間に、フワフワパンケーキ作りに取り掛かる。
フワフワパンケーキの材料は、ライ麦粉と卵にミルク、バター、砂糖の代わりのハチミツだ。
本当は小麦粉の方がフワフワになるんだろうけれど、ないものは仕方がない。
ライ麦粉も独特の風味が美味しいから、これはこれでいいとも思う。
まず卵を卵黄と卵白に分けて、卵黄にミルク、バターをボールに入れて混ぜ、さらにライ麦粉を入れて混ぜ。
次に卵白とハチミツを混ぜつつ料理スキルで攪拌して、ピンと角が立つメレンゲを作る。
ふくらし粉を使えば楽なんだろうが、施設で料理を作っていた人が極力ふくらし粉の類は使わないタイプだったので、フワフワのパンケーキと言えばコレだった。
そしてアキヒサがメレンゲ作りに駆り出されたのは言うまでもない。
「うーん、何度やってもこの『攪拌』スキルの心地よさは最高だな」
労力をかけずにクメレンゲが作れるなんて、まさに魔法の賜物だ。
ハンドミキサーだって、多少の労力を使うのだから。
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