第37話 ウィングドッグ
空飛ぶ大蛇とか、まんまの名前だった。
しかも危険を冒しつつ倒しても大した金額にならないとは、実に遭遇したくない魔物でもある。
――となると、これを売っても迷惑がられるだけかも……。
そのあたりは後で考えることにして。
とりあえず邪魔だから鞄に仕舞おうと考えたアキヒサが、フライサーペントに触れようとした時。
「キュゥーン……」
なにか聞こえた。
「うん? レイ、なにか言ったか?」
アキヒサがレイに確認すると、レイはフルフルと首を横に振り、フライサーペントの口元を指さす。
――口の中になにかいるのか?
もしかしてコイツは飛びながら食事中だったりしたのか?
そして鳴き声が聞こえたってことは、まだ生きているということで。
アキヒサはフライサーペントに近寄り、「よいしょっ」と掛け声と共に口を開ける。
「キュゥ」
するとフライサーペントの口の中に、羽が生えた小犬がいた。
唾液でベトベトになっているその身体があるのは、フライサーペントの喉の奥、ゴックンされる寸前の位置だ。
フライサーペントが絶縁体代わりになって、感電せずに済んだのかもしれない。
とにかく生きているとわかっていて、このまま放置するのも気が引ける。
しかもレイは羽付き子犬が気になるのか、じぃーっとこっちを見ていた。
レイがこんなに興味を持つのは出会ってから短い間でも珍しいことで、ここでスルーするわけにはいかないだろう。
アキヒサは気持ち悪いのを我慢して、フライサーペントの口の中に半身ねじ込み、喉の奥に引っかかっている羽付き子犬を救出する。
「お前、なんで食べられちゃってたんだよ」
アキヒサはそうぼやきつつ、この羽付き子犬を鑑定する。
~~~
ウイングドッグ(幼体)
犬の身体に羽の付いた魔物。
集団で行動する習性があり、戦闘能力が高く、氷のブレスを吐く。
一方で幼体は、一部の者に愛玩目的で飼われることがしばしばあり。
毛皮は高級品として売買される。
雑食性で、なんでも食べる。
~~~
コイツも立派な魔物だった。
大人のウイングドッグはそこそこ強いらしいけど、幼体だと愛玩目的で飼われてしまうくらいだから、それほど戦闘力がないのだろう。
この子は親と離れている隙に、フライサーペントに攫われてしまったのかもしれない。
「……」
そして魔物となるとテンション上がりがちなレイが、このウイングドックの子どもをそこいらで拾った小枝でツンツンしている。
どうやら討伐する気になれないようだ。
――そりゃあ、ほんの子犬だしなぁ。
しかし構うには全身がフライサーペントの唾液まみれで、非常に汚い。
このままの状態でレイに触らせるわけにはいかないだろう。
「というわけで、クリーン」
するとウイングドッグの幼体は、真っ白な体毛に青味かがった模様が入る、綺麗な毛皮が露わになった。
――おお、これは確かに愛玩したくなるかも!
ウイングドッグの幼体の身体が綺麗になったからか、レイがツンツンするのを小枝から指にかえている。
さっきまでは汚くて直接触りたくなかったようだ。
レイにはその衛生観念を大事にしてほしい。
しかし、コイツをどうするべきか。
「お前、どこから来たんだ?」
「キュゥーン」
アキヒサの質問に、しかし当然このウイングドッグの幼体が答えられるはずもなく、震えるばかり。
この幼体が棲んでいるのは、少なくともこの辺りじゃあないだろう。
どこか遠くからモグモグされつつやって来たはずで、だとすると果たして自力で群れへ戻れるのか?
まあ、そこまでアキヒサが見届ける必要はないように思えるけれども。
「……」
しかしレイはこのウイングドッグの幼体が気になるらしく、さっきから近くに座って動かない。
こういう状況を、アキヒサは施設でよく見たことがあった。
――もしかして、飼いたいのか?
生体兵器が魔物を飼うなんてかなり状況がアレな気がするが、そういえば育児書に、「ペットの存在は情操教育に最適です」という項目があったのを思い出した。
それにここで野に放っても、他の魔物にモグモグされる未来しか浮かばない。
一度助けたのに、それはさすがに寝ざめが悪いか。
「レイ、この魔物を飼うか?」
アキヒサがそう問いかけると、レイがギュルンとこちらを振り向いた。
若干目がキラキラしている気がしなくもない。
――これは決まりだな。
「飼ってもいいから、ちゃんと面倒を見るんだぞ?」
子どもがペットを飼う際のお約束のセリフを言うと、レイはコクコクと頷く。
こうして、アキヒサらにペットができたのだが。
「飼うとなると名前がいるな。
……じゃあシロで」
安易と言うことなかれ。
こういうのはシンプルがいいのだ。
第一呼びやすいではないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます