第三章 ニケロの街

第36話 ニケロの街を目指して

リンク村を出たアキヒサたちは、のんびりと街道を歩いていた。

 リンク村からニケロの街まで、夜通し歩き続けて二日、きちんと夜は休んで進めば四日程度だという。

 しかもこちらは三歳児連れ。レイは普通の三歳児よりも体力があるとはいえ、歩幅故に進める距離は大人より短い。

 アキヒサがレイを背負っていくという手もあるが、そこまでして急ぐ理由もなし。

 なのでニケロの街までそれ以上かかるかと思いつつ、休み休み進んでいる。

 それにこの街道は同じ景色が延々と続く道ではなく、現在ちょうど紅葉の季節で、景色の移り変わりが楽しめた。


「紅葉が綺麗だね、レイ」


今も昼食休憩も兼ねて、街道わきの草むらにシートを広げて座るアキヒサは、隣に座るレイに話しかける。

 昼食は「森のそよ風亭」の弁当だ。

 黒パンはフレンチトーストにしてあり、冷めていても美味しいのはわかっているが、温め直して食べるとやはり絶品だ。

 やはり本職の料理人が作ったものは、アキヒサが作ったのとは完成度が違う。

 弁当を食べて食休みをしている間、レイは飛んできた紅く色付く葉っぱを拾って、眺めたり飛ばしたりして遊んでいる。

 綺麗なグラデーションが出ている葉っぱが多いので、とっておいて栞にしてもいいかもしれない。

 思えばアキヒサは日本で、紅葉狩りなんて風流なことをしたことがなかった。

 それが異世界で叶うとは不可思議なものだ。

 そんな風に、アキヒサがまったりとした気分でいると。


 クイクイッ


 突然、レイがアキヒサの服を引いた。


「なんだ、どうした?」


アキヒサは「トイレにでも行きたいのかな?」と思いつつ尋ねると、レイの視線は上を向いている。


「空になにかあるのか?」


アキヒサも上を見上げると。


 キュエェー!


 鳥っぽいなにかの鳴き声が聞こえた。

 よく見ると、遠くの空になにかが飛んでいる影が見える。

 レイはどうやらアレを見ているようだ。


 ――レイが反応したということは、魔物かな?


 遠目なのでどんな魔物なのか判断し辛いが、しきりに雄たけびっぽい鳴き声を上げていて、狂暴そうなのは見て取れる。

 そして基本肉弾戦が得意なレイには、遠距離攻撃の手段がない。

 だからアキヒサを頼ったのだろう。

 アキヒサとしてもあれが間近にいるならビビるだろうが、幸い遠くにいるのであまり恐怖はない。

 放っておくと危なそうだし、魔術で倒しておくのが安全のためだろうかと考える。


「とはいえ、どんな魔術でいこうかな?」


毛皮は傷がない方が高く売れることは学習済みだし、カマイタチは避けたいところだ。


 ――傷をつけずにやるとなると、雷とか?


 魔術のイメージとしては、テレビで見た雷実験がいいだろうか?

 電撃が一直線にあの魔物に落ちていく様を想像すれば、イケる気がする。

 アキヒサの中で魔術の方向性が決まった時には、その飛んでいる影は結構近くまで来ていて、はっきりと姿が確認できた。

 それは結構な巨体で、大蛇の頭と尻尾に鳥の身体がくっついたような姿で、目が血走っていてちょっとグロい。

 あんまりじっと見ていると夢に見そうだし、さっさと退場してもらいたい。

 というわけで。


「サンダー」


 バリバリッ!


 唱えたアキヒサの手の平から、雷撃が轟音を立てつつ一直線に空の魔物へ向かう。

 雷が命中した魔物は全身を痙攣させて、地上へ落ちて来た。


 ズドォン!


 自由落下の勢いでちょっと地面をへこませた魔物は、そのままピクリとも動かなかった。

 雷で感電死したらしい。


 ――よかった、ちゃんと威力調整ができた!


 カマイタチの二の舞だけはゴメンである。

 しかし雷を撃ち出した後の脱力感が、カマイタチよりも強かった。

 雷の魔術はカマイタチよりも魔力を食うのかもしれない。

 魔術のことはこれくらいにして、これがどんな魔物なのか、早速鑑定だ。


~~~

フライサーペント

大蛇の頭と尾、鷲の身体を持つ魔物。

大蛇の口からは毒を吐くため、接近戦は危険。

時折地上の生き物や、時には馬車を掴んで攫ったりするため、見かけたら要注意の魔物である。

 素材は肉は筋っぽい上に臭みが強くて食肉に向かず、蛇皮と羽が安価で売れる程度。

危険な割に倒し甲斐がないため、冒険者からは嫌がれる。

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