第33話 ベルちゃんを探せ!
ともあれ、アキヒサはベルちゃん捜索のためにレイと一緒に「森のそよ風亭」を出たのだが。
土地勘のないアキヒサらがやみくもに探しても、埒が明かないことも事実なわけで。こういう時こと、探索スキルの出番だろう。
「よし、探索!」
アキヒサがベルちゃんだけを表示するように意識すると、素材の反応が消えて、遥か遠くにマーカーが一つだけ表示された。
素材以外にも反応するかちょっと心配だったのだが、探索スキルはちゃんと発動したのでホッとする。
「……って、これは森の方向?」
マーカーのある方向に、アキヒサは眉をひそめる。
ベルちゃんは一人で森に行ったのだろうか?
一体どんな用事があったのか知らないが、一言声をかけてくれれば付き合ったのに。
なんにせよ、夜は魔物が活発になる時間だと村の狩人たちも言っていたし、早く見つけてあげないと危ない。
「行くよレイ、ちょっと急ぐからね」
アキヒサは一言そう断ってレイをひょいと抱えて駆け出し、村を出たところで魔術を発動する。
「フライング」
するとレイを抱えたアキヒサの身体が浮き上がり、滑るように飛んでいく。
この魔術は木材運びの際に、速く移動するために編み出したものだったりする。
奥まで行ってしまったら普通森で一泊しなきゃならなくなるのだけれども、アキヒサとしてはできれば宿に戻りたかったのだ。
寝るだけならばテント住宅を出せばいいのだが、やはり美味しい食事は欲しい。
そんなズボラ根性が元で生まれた魔術は、身体に風を纏わせて軽く浮いた状態で進むというもの。
けれどこれは森の中の一部が見晴らしがよくなったからこそ、使える魔術だったりする。
速く飛ぶため障害物を避けるのが難しくなり、激突必至。
安全のため、木々が密集した場所ではちゃんと歩いて行くのがオススメである。
ともあれ、魔術のおかげであっという間にマーカーの近くまで来た。
このカマイタチの道から右手に入ったところに、ベルちゃんの反応がある。
しかし周辺には魔物の反応もちらほら見かけた。
「レイ、ここからは魔物に気付かれないように、静かに歩くよ。
しぃー、だ」
「しぃー」
アキヒサが口の前で右手の人差し指を立てると、レイも真似をしてくる。
――うん、こんな状況だけど可愛いな幼児! ズルいぞ!
幼児マジックに悔しがるのは程々にして。
アキヒサとレイだけなら魔物くらい撃退すればいいのだが、うっかりベルちゃんの方に逃げられたら拙いだろう。
なのでレイと二人、辺りの魔物を刺激しないように静かに歩きながら、マーカーのある方向に進む。
「……ぇっ、ふぇっ」
するとしばらくして、大きな木の根元にしゃがみ込み、メソメソ泣いているベルちゃんを発見した。
しかし、そのすぐ近くにキラードッグが三匹潜んでいる。
――危ない、ベルちゃんはキラードッグに気付いていない!
「ベルちゃん!」
アキヒサが注意を促すのと、レイがものすごい勢いで飛び出したのが同時だった。
ズバゴォォン!
レイの体当たりでキラードッグ三匹が吹き飛ぶと、反応が消える。
一撃必殺だった。
そしてゴソゴソと音がしたかと思えば、レイがキラードッグたちを引きずって戻る。
相変わらず力持ちな幼児だ。
――けど、絵面が凄いことになっているから、さっさと鞄にしまっちゃおうか。
アキヒサはさっさと獲物たちを鞄の中に消すと、ベルちゃんに向き直る。
「アキヒサお兄ちゃん、レイちゃん……」
この一連の流れをきょとんとした顔で見ていたベルちゃんだったが。
やがてくしゃりと顔を歪め。
「うわぁぁん! 怖かったよう!」
そして、わんわんと大声で泣きだした。
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