第32話 スキルの謎と、いないベルちゃん

フレンチトーストと別にもう一つ、気になることがある。

 それは、スキルを教会で買うということだ。

 これはさりげなく食堂で他の客に聞き込みをしても、同じことを言われた。

 曰く、教会に行けば自分に向いたスキルが分かり、そこでお金を払えばスキルを得られるという。

 そしてスキルを得たかどうかはどうやって分かるのか?

 それは「なんとなく、感覚的に」らしい。

 なんともあやふやな話なのだが、どうもどこかで定期的にスキルの成長が確認できる、というシステムがないようなのだ。

 この話を聞いた時、コンピューターにスキルを貰ったアキヒサが特別なのか? とも考えた。

 だが旦那さんをコッソリ鑑定してみると、ちゃんと料理スキルを持っていた。

 しかもかなりの高レベルだ。旦那さんはスキルなんて買っていないっていう話なのに、である。

 やはりスキルとは、本人の性質や頑張りで身に着くものなのではないのか?

 けれどだったら、どうしてそれを教会で買うなんてことになっているのだろう?


 ――うーん、なんかモヤモヤするなぁ。


 そんな謎を抱えてしまったアキヒサだが、明日にはこのリンク村を出立するつもりなので、昼間は村の中をぶらついて、旅に必要なものを色々調達することにした。

 村にはほんの数日間の滞在だったにもかかわらず、食堂で知り合った村人たちはよくしてくれて、色々なものを持たせてくれた。

 特にレイは人気者だ。

 たとえ超絶無口でも、幼児は幼児であるだけで可愛いのだと改めてわかるアキヒサである。

 そんな風に色々貰ったものを、アキヒサは「森のそよ風亭」に戻って整理しつつ、夕食前の時間を過ごしていると。


「アキヒサさん、いるかい?」


女将さんが部屋を訪ねてきた。


「はい、なんでしょうか?」


アキヒサがドアを開けると、そこには不安そうな顔の女将さんが立っていた。


「ここに、うちのベルがお邪魔していないかい?」


そしてそんな質問をされるが、ベルちゃんとは朝食の時に会ったきりだ。


「いえ、今日は朝会ってから見てませんけど」


正直にそう答えると、女将さんが困ったようにため息を漏らす。


「そうなのかい?

 レイちゃんと遊ぶって言ってたから、てっきりこの部屋にいるのかと」


「……もしかして、ベルちゃんがまだ帰っていないんですか?」


アキヒサが尋ねると、女将さんが頷く。

 今の時刻は夕食前、しかも冬を迎えようかという時期は、日が暮れだすと急に暗くなる。

 田舎故に街灯なんてなく、そうなると月明かりだけが頼りの真っ暗闇だ。

 これは、早く見つけないと怖い思いをするだろう。


「僕も、ちょっと探してきます!」


アキヒサが女将さんにそう告げ、部屋に置いていたコートに袖を通す。


「……」


すると部屋で自分なりに荷物を片付けていたレイが手を止め、無言で立ち上がってこちらへ来ると、アキヒサのコートをキュッと握る。どうやら、一緒に行きたいらしい。


 ――レイもなんだかんだで、ベルちゃんに無関心じゃなかったんだなぁ。


 もしかして、どう接すればいいのか分かっていなかっただけなのかもしれない。


「じゃあレイも、一緒にベルちゃんを探しに行こう!」


アキヒサの言葉に、レイがコックリと頷く。

 ベルちゃん捜索に加わるアキヒサらに、女将さんが頭を下げる。


「アタシも旦那も宿屋の仕事から離れられないから、助かるよ。

 村の衆にも声をかけているんだけど、案外その辺に隠れていて、ひょいと顔を出す気がするがねぇ……」


女将さんは半ば自分に言い聞かせるように、そんなことを言う。

 施設でもそうだったのだが、子どもは大人が予想外のことをする時があるから、思いもよらない場所にいるかもしれない。


「レイと遊ぶって言ってたのなら、案外レイの姿をみたら出て来るかもしれませんね」


アキヒサが気休めにでもと思ってそう言うと、女将さんも「そうだといいけど」と微かに笑う。


「レイちゃん、ウチのベルをよろしく頼むよ?」


そして屈んで頭を撫でる女将さんを見上げるレイは、なにか頼みごとをされたという雰囲気がわかったのか、再びコックリと頷く。

 うーん、「俺にまかせろ」感が半端ないというか、三歳児なのに頼りがいのあるオーラが出ている気がする。


 ――何者だこの子? って生体兵器か。


 アキヒサは一人で自分にツッコむのだった。

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