第28話 弁当は美味しい
こうしてお湯を沸かしている間に、弁当箱である木の皮を編んで作られた箱を開ける。
中身は油紙で包まれていて、中には薄切り黒パンでこんがり焼いた鶏肉とチーズを挟んだものと、サラダにピクルス、果物というメニューが詰まっていた。
これに沸かしたお湯でタイム茶を淹れて、レイには村で分けてもらった搾りたてミルクを温めてやれば、立派な昼食の出来上がりだ。
けれどよく見ると、レイの弁当の中身はアキヒサとちょっと違う。
レイの方の弁当は、黒パンのスライスと鶏肉とチーズが別々にしてあった。
黒パンをふやかして食べられるように、という配慮だろう。
――でもこれだと、レイにはパンケーキのほうが食べやすいかな?
昨日焼いたのが鞄の中に入っているので、レイに選ばせてみる。
「レイ、この黒パンとパンケーキ、どっちが食べたい?」
「ぱんけーき」
するとレイからは食い気味の即答がきた。
こういう時はちゃんと発言できるらしい。
普段無口だけど決める時は決める男とは、カッコいいとアキヒサは思う。
たとえそれが食事の好みでも。
とにかく、リクエスト通りに黒パンを下げてベラの実もちゃんとたっぶり盛ったパンケーキを出してやると、レイは嬉しそうだ。
――やっぱり、子どもにはあの硬い黒パンは辛いか。
旦那さんはレイが食べやすいように、気を使ってパン粥を作ってくれるのだけども、レイ自身はあのドロドロとした食感が逆に食べ難いというか、ぶっちゃけあまり好きじゃないみたいで、食べる際に眉間に皺が寄っていた。
今後の事を考えて、主食をレイにも食べやすくするのは課題だ。
食育的にも、ちゃんと噛んで食べるものを食べさせてあげたい。
それにいくら激強チートでも、身体は普通の三歳児なようで、昨日もなんだかんだで宿屋についたらウトウトし始めたから、夕食前にちょっとお昼寝したのだ。
アキヒサはそんな風に今後の事を考えつつ、弁当を食べる。
鶏肉にかかっているタレが甘しょっぱい中、ハーブのような爽やかな風味がするし、サラダやピクルスも色鮮やかで見た目に楽しい。
「うん、これは美味しい!」
思わずそう言うアキヒサの横では、レイが無言で鶏肉をモグモグしていた。
鶏肉も、レイの口のサイズにカットされている気遣いぶりだ。
――戻ったらお礼を言わなきゃだな。
こうしてレイと一緒に大満足なお弁当を食べたら、村へと戻った。
今度は手ぶらなことを怪しまれないように、いくつかの薬草を入れた袋を手に持っていた。
もちろん、この薬草は後で雑貨屋に売るが、その前に工房だ。
「親方さん、木材はどこに置きますか?」
「おう、こっちにまとめて置いてくれ」
訪ねた工房で親方に指示された場所に、アキヒサは木材を出す。
ズドォン!
轟音を響かせて落ちる木材に、親方がしかめっ面をする。
「オイ兄ちゃんよぉ、もうちぃっと静かに置けねぇのか?」
「スミマセン、この鞄の仕様というか、静かに置けないようになっているんです」
親方にそう言われてしまったものの、これはアキヒサの努力ではどうにもならないことなので、近所迷惑なことを謝るしかない。
その後、雑貨屋に薬草と退治した魔物なんかを売りに行く。
「アンタら、薬草をよく見つけるなぁ」
そこで雑貨屋の店主からはそう感心されてしまった。
どうやら通常の薬草持ち込みより、量が多いらしい。
しかし薬草はいくらあっても困らないため、多い分は助かると喜ばれた。
――探索スキルって、あんまり持っている人がいないのかな?
アキヒサはそんな疑問を抱きつつ、本日のお仕事が終了したのだった。
そんな作業を三日繰り返したら、森から倒れた大木がなくなって森の景色がずいぶんとスッキリした。
――森の中にどでかい道ができたようなもんだよねぇ。
ここに再び木が生えるのは、果たしていつになるんだろう?
もちろん工房に納める大木に、リンク村へ来る前に鞄に溜めていたものも足しておいた。
木材置き場にみっちりと積み上げられた大木を見たアキヒサは、思わず遠い目になる。
――いやぁ、カマイタチさんこんなに頑張っちゃってたんだね。反省……。
アキヒサはため息を漏らすしかない。
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