第29話 本日は休日なり
リンク村に滞在して、本日四日目の朝。宿屋の滞在延長したのである。
アキヒサたちが朝食を食べに食堂へ降りた際、最近必ず聞く声があった。
「レーイーちゃーん! おはよう!」
この声の主は、女将さんの十歳になる娘さんのベルちゃんだ。
赤茶色のくせ毛をツインテールにした元気な子で、彼女がしきりにレイを構ってくるのである。
たぶんレイのことを弟みたいに思えるんだろう。
今朝も、はじける笑顔でレイに駆け寄ってくるのだけれども。
「……」
レイは無口無表情なガン無視で、今のところベルちゃんは全敗中だ。
レイにとって、知らない人はとりあえず「敵」というカテゴリーになるみたいなのだ。
生体兵器としての性質なのか、はたまたレイ自身の性格なのかは分からない。
――でもレイ、ちょっとはベルちゃんに返事をしてあげよう?
女の子には優しくした方が、今後の人生が生きやすいものになるのは確かなのだから。
「ごめんねベルちゃん、無口な子で」
アキヒサがレイの代わりに謝ると、ベルちゃんは片手を上げ首を横に振る。
「いいのよ、オトコはクールな方が格好いいから!」
そんな風に言う、なんともめげないおませなベルちゃんであった。
これはいつもの朝の風景だが、今日はいつもよりも比較的まったりと過ごしている。
何故なら、昨日で森の大木を運搬し終えたからだ。
――いやぁ、いい小遣い稼ぎになったなぁ。
おかげで工房でテーブルとイスが買えてしまった。
だがこれは元はと言えばアキヒサの魔術の失敗が原因で、それでお金を貰う行為がいささか後ろめたい気もするけれども、これは運搬料だと割り切った。
ついでに森で狩った魔物も雑貨屋に売った分も、かなりの稼ぎになった。
これらは狩人に頼んで皮を剥いでもらったら、食肉分は村人に売るんだそうだ。
これから冬に向けての食糧の備蓄に余裕が出ると、雑貨屋に喜ばれた。
ただイビルボアが高級食肉だと鑑定に出ていたので、一頭分だけ取り置いてもらった。
貰った肉は見た目イノシシ肉というよりも、高級黒豚肉っぽいものだ。
――これは美味しそうだ、ポークステーキもトンカツも好きなんだよね。
もうちょっと狩っておいて、鞄に入れておいてもいいかもしれない。
こうなると解体スキルが欲しくなる。どこかで教われば手に入るだろうか?
それはともかくとして。
アキヒサは今日明日をのんびりと過ごしてから、そろそろ旅立とうかと思っている。
この村は居心地がいいのだが、だからこそズルズルと滞在したら旅立てない気がするのだ。
次の目的地として、とりあえずニケロの街を考えていた。
というわけで、休日の朝食の後はレイと部屋でのんびりタイムだ。
ちょうど木工工房で、レイが暇な時に遊ぶのにどうかと親方に言われて、積み木セットを貰ったのだ。
でもこれがまた、レイの性格にストライクしたみたいで。
黙々と積み木を組み立てては崩してを繰り返し、だんだんと大作にチャレンジしていっている。
レイが集中している間、アキヒサは読書だ。
雑貨屋には本も置いてあって、その中でも埃をかぶっていた本の題目が気になったのだ。
その名も「スキルとは」だ。
雑貨屋の店主さんから「そんな役に立たねぇ本を買ってどうする」と言われたのだが、スキルはこんなに便利である。
――実際役に立っているのになぁ?
アキヒサはそんな風に不思議に思いつつも、買って帰ったのだ。
あのコンピューターに言語の調整をしてもらったおかげで、ちゃんと読み書きもできるみたいでホッとしているが、この本は古い言い回しが使われているようで、読みにくくてまだ数ページしか進んでいなかったりする。
こうしてまったりと午前中を過ごしていたのだが。
「……あ、そろそろ時間か」
アキヒサは時計を見て本を手放す。
昼食にはちょっと早いが、やりたい事があるので早めに降りようと思う。
「レイ、ちょっと早めに食堂に行こうか」
そう声をかけつつレイの方を見たら、なんだかすごいタワーを作っていた。
レイの座高を軽く超えていて、こちらを見る顔が無表情ながらもちょっと自慢気だったりする。
しかし作業を中断するとなると、豪快にガッシャーンと崩す。
――おう、自分の作品に未練はないんだな……。
レイと一緒に積み木を全部木箱に仕舞ってから食堂に向かうと、まだ時間が早いため客はいなかった。
厨房を覗くと、旦那さんが大きな鍋をかき混ぜている。
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