第27話 戦闘に慣れよう
「……!」
無言で駆けていき倒しては、獲物を抱えて戻ってくる。
三歳児の小さな身体で頭上にデカい獲物を掲げて戻ってくるのは、ちょっとしたホラーだ。
レイの手にかかったのは、キラードッグにイビルボア、あとでかい熊の魔物のビックベアなどなど。
全て殴り倒していて、今のところ一撃必殺。
どうやら肉弾戦がレイの戦闘スタイルらしいが、なんてチートな三歳児だろうか。
「レイ、手とか痛くないか?」
アキヒサはレイが拳を痛めていないか心配するも、傷もなくて綺麗なもので。
鬼神スキルで肉体が保護されている状態なのかもしれない。
アキヒサが目覚ましいレイの戦績に半笑いでいると、また新たな獲物(ぎせいしゃ)が現れ、レイがやる気満々で駆け出そうとする。
「あ、レイ待って、僕にも倒させて」
それをアキヒサは慌ててストップをかけた。
大木拾いにちょっと飽きて来たというのもあるが、もう一度攻撃の魔術を試したいのだ。
やはりせっかくの全属性魔術は、攻撃してこそだろう。
それに、レイにばかり戦わせていたら、まるで幼児に寄生プレイをしているみたいではないか。
アキヒサとしても、そんな情けないのはさすがにゴメンである。
止められたレイは若干不満気味な顔に見えたものの、素直に獲物を譲ってくれた。
その獲物は、因縁のイビルボア。
その「なんだテメェは?」と言わんばかりの威圧感にビビるものの、アキヒサは一応レイの保護者なのだし、無様な姿を見せられないと足に力を入れる。
アキヒサが扱う魔術は、やはりこちらも因縁のカマイタチ。
今度はあんな悲惨な最後じゃなくて、ちゃんと倒してやりたいと考え、今度は魔力量を調節して、適度な風の刃を生み出そうと頑張る。
こんな風にアキヒサがもたついている間に、イビルボアの方から襲ってきそうなものなのだが、レイの強者のオーラ的なもののせいで、あちらも身動きできないのだろうか?
なにはともあれ、戦闘初心者なアキヒサにはラッキーな状況だ。
「カマイタチ」
アキヒサが魔力を動かしてそう唱えると、放たれた風の刃がイビルボアの巨体の首を落とした。
カマイタチも魔力の量さえちゃんとすれば効果的な魔術だと、これで証明されたのだ。
――やった、カマイタチさんの汚名返上だね!
アキヒサが一人勝利を噛みしめていると、レイがイビルボアを引きずってきた。
幼児に後始末をさせるとは、ダメな大人である。
そんなことをしつつ、このくらいでいいかという地点まで来たところで休憩だ。
「お昼ご飯にしようか、レイ」
アキヒサはレイに声をかけると、薬草チャレンジをしていたレイがパッと立ち上がってこちらへ駆けてくる。
「まず、手を洗わなきゃだな」
けれどレイは大きな獲物を持ち上げたりしたからか、結構全身が汚れているので、できることならテント住宅を出して風呂にでも入れてやりたいところだ。
今はここにテント住宅を出してもいいのだろうが、しかしいつもいつもそんなことが出来るはずがない。
昨日のように誰かに遭遇した時のために、外で普通に休憩することに慣れたい。
「これこそ、魔術でなんとかできないか?」
というわけでアキヒサは考えた、服ごと身体をまるっと洗浄してしまえる魔術を。
イメージとしてはミスト浴で、汚れが分解されて除菌もできる効果をつけて、最後に乾燥してフィニッシュなんていいだろう。
――イメージできた、よしやってみよう!
「クリーン」
まずは自分に向かってそう唱えると、無事魔術は発動した。
汗でちょっとべたついていた肌や髪がサラッとなり、汗臭さもなくなった。
レイにもクリーンをかけてやると、美幼児っぷりが増した気がする。
魔力もちょっとダルいか? という程度の減り具合で、普段使いにも申し分ない魔術だろう。
全属性魔術の使い方として、適切なのかは置いておくとして。
それからアキヒサは改めて、魔術で出した水の球でレイと一緒に手を洗う。
クリーンを使えばこちらは要らないのかもしれないが、手洗いの癖をつけるためである。
その後で、そこいらにある適当な切り株をテーブル代わりにすると、地面にシートを敷いて弁当を並べた。
そしてお茶を淹れるためのお湯を沸かすべく、枯れ枝を集めて火をつける。
この火も、魔術で出した火種でつけた。
こういう地道な作業で、魔力の扱いを覚えていくしかない。
ちなみに鍋は、雑貨屋で買ったものだ。
テント住宅の備品の鍋もあるのだが、あちらは雑貨屋で見た通常の普段使いの鍋と比べると段違いに小奇麗で質がいいため、人に見られたら問題かもしれないと用心したのだ。
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