第26話 初仕事へ出発!
アキヒサの言葉を聞いても、女将さんがなおも心配する。
「でも、大丈夫かい?
そんな小さな子に森を歩かせて」
これに、意外にも隣から援護が出た。
「女将さんよ、コイツらは元々森で拾ってきたんだから。
それに一緒にこの村まで来る時も、特に愚図りはしなかったぜ?
それどころか一丁前に薬草摘みなんざやっているんだから」
確かに、レイはスキルのおかげもあってか、普通の三歳児よりも体力があるし、途中でへばったりもしなかった。
むしろ休憩を要したのはアキヒサの方だったりしたのだ。
――僕、もっと体力をつけなきゃだな……。
アキヒサの方が落ち込んでいると、女将さんが「そうなのかい?」と首を捻る。
「ガイルさんが言うなら、心配ないのかねぇ」
そう言って引き下がった女将さんは、旦那さんに呼ばれて厨房へと入っていく。
その頃にはもう食べ終えていたガイルが、席を立つ。
「俺は今日にはもうここを出立するが、大抵ニケロの街で仕事をしている。
来ることがあったら会えるかもな」
なるほど、ガイルはそのニケロの街というところが本拠地なのか。
こちらは特に行く当てのない身であるし、次に向かう先をそこにしてもいいだろう。
でも、その前に。
「あの、そのニケロの街は、誰でも普通に入れるんですか?」
アキヒサはそう質問をぶつける。
もしかして、街へ入るのに入国審査的なものがあったりするのだろうか?
となると、パスポートみたいなものが必要だったりしたらどうしようか?
アキヒサのそんな疑問に、ガイルが不思議そうな顔になった。
「あん? お前さんだって旅人なら、どこかのギルドで登録くらいしているだろうに」
そんな当然のように言われても、もちろん異世界生活が始まりたてホヤホヤのアキヒサが知るわけがない。
「いえ、登録していないどころか、初耳でして」
「は⁉ どっから来たんだよ、お前らは……」
正直に語るアキヒサに、ガイルが呆れつつも教えてくれた話によると、大きな街には冒険者ギルド、商人ギルド、職人ギルドの三つがたいていあるらしい。
そこで登録しておけば身分証を作ってもらえて、街から街への移動での様々な審査がパスされるのだそうだ。
それは登録しない手はないだろう。それにギルドという響きが、まさにRPGみたいでテンションが上がるアキヒサであった。
そんな話を聞いたらガイルと別れ、食堂で朝食を食べたら部屋に戻って歯磨きをして、それから早速仕事開始だ。
仕事内容は森の中に放置された大木を集め、村の木材置き場へ運び込むというもの。
「じゃあ、行こうか」
「……」
宿屋を出て僕が隣を見ると、レイが無言でコックリと頷く。
初仕事に、レイなりにやる気が出ているようで、ちょっとキリッとした顔になっているように見える。
出発前に、アキヒサはレイと仕事の役割を話し合う。
「レイは僕が大木を鞄に収納している間の、魔物が寄ってきているか注意するのと、倒せそうなら倒す役目だからね?」
アキヒサがそう説明すると、レイは「わかっているぞ」と言いたげに頷く。
アキヒサとしても、レイには普通の三歳児のように育ってほしいとは思うけど、鬼神スキル持ちであることは消せない事実だ。
だったらその鬼神スキルを使わせないのではなくて、上手くコントロールする方法を学ばせるべきだろう。
育児書にあった「適度な運動を促しましょう」はそういうことだろうと、アキヒサは推測する。
――普段使わせないで、いざって時に暴走する方が怖いしね。
世界の平和のためにも、使える時にバンバン使って、感覚を養ってもらいたいと願っている。
役割分担の話がついたところで、宿屋で作ってもらったお弁当を鞄に入れて、二人でのんびり森へと歩く。
アキヒサとしては森の入り口から大木を拾っていき、徐々に奥へ行く作戦である。
恐らくは無理をすれば、今日中に拾えなくもないが、これだけの量の大木を鞄に収納しているのも変だろうと考えた。
ガイルから、現在出回っている妖精の鞄は家一軒分程度の収納力だと聞いたことだし、それを明らかに超える量の大木を出したら、目立つなんてものじゃない。
――まあ、異世界初仕事なんだし。のんびりやろう。
そんなアキヒサの気分とは裏腹に、レイは無言ながらも生き生きとした様子で駆け回っていた。
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