第25話 リンク村の朝
翌朝。
アキヒサはリンク村での朝を迎えた。
今朝も、目を開けたらレイのどアップ顔がある。
――僕の寝顔って、なんか面白いかな?
アキヒサは首を傾げながら、とりあえず朝の挨拶をする。
「おはようレイ、起きたら顔を洗おうか」
というわけで朝の支度をするのだが、普通なら井戸まで水を貰いに行くのだろう。
けれどアキヒサはここで試したいことがある。
それは魔術だ。
魔術で水を出せるのか?
そしてその水は飲み食いに使えるのか?
それを試したいのである。
――よし、やるぞ!
部屋にある桶に魔術で水を溜めるのだが、一応失敗した時に備えて、下に布を敷いておく。
「ほんのちょっと、ほんのちょっと……『水球』」
手元に集中して唱えると、桶にコップ一杯程度の水の球が落ちた。
「よし、成功!」
アキヒサが早速鑑定すると、桶の中の水は「魔術で生み出された水、美味しくも不味くもない」と出た。
要するに普通の水ということだ。
――これで水に困らない! 便利だな魔術!
アキヒサはガイルとリンク村まで歩く間、水の入手手段の確保の大切さを切実に感じた。
日本だとコンビニに寄れば普通に水道が使えて、飲み水だってどこにでも売っているが、この世界では水を自力で用意している者しか飲めないし使えないのだ。
しかし魔術のおかげで、この水問題が解決である。
でも多分、本来の魔術はこういう使い方じゃないんだろうとは、なんとなく分かっていた。
所謂RPGの魔法使い職のように、大規模戦闘でこそ活躍するのが魔術なんだろう。
けど、魔術をどう使うかなんてアキヒサの好きにすればいいはずだし、あんなカマイタチよりは迷惑をかけない桶の水溜めの方が、世のため人のためだろう。
――生活が便利になるなら、それに越したことは無いよね。
そんなジレンマは置いておいて。
桶にたっぷりと水を溜めてから、先にレイに顔を洗わせて自分も洗い、早速昨日買った服に着替えたところで、朝食を食べに一階の食堂へ向かう。
この「森のそよ風亭」は村の食堂も兼ねているらしく、泊り客は少なくても食堂はそこそこ繁盛している。
料理を作っているのは、女将さんの旦那さんだそうだ。
昨日の夕食もここで食べたのだが、森の恵みをふんだんに使っている料理は美味しかった。
旦那さんの料理の腕は評判のようで、それ目当てで街道を通る際にリンク村に滞在していく旅人もいるのだとか。
――これは異世界生活初っ端から、アタリを引いたかな。
やっとレイにまともな食事というものを味合わせてあげられて、アキヒサはホッとしたりもしている。
しかしそんな中、不満な点が一つあった。
それは、やはりこのあたりでの主食が黒パンだったことだ。
黒パンとて食べ方によっては味わいあるパンなのだが、それでも白パンに慣れた日本人の口には、どうしても堅いのである。
黒パンの材料はライ麦だ。このあたりは寒冷地だそうで、小麦が育ちにくく、輸入品のために高価らしい。
だからパンと言えば黒パンなのだそうだ。お土地柄ならばしょうがない。
アキヒサはそんなことをつらつらと考えつつ食堂へ行くと、そこにはガイルもいた。
村に宿屋はここしかないのだから、ガイルだって必然的に宿泊先はここになる。
そしてガイルも旦那さんの料理目当ての旅人の一人だった。
「おうアキヒサにチビちゃん、おはようさん」
「おはようございます、ガイルさん」
食堂のカウンターに座るガイルの、隣にアキヒサとレイも並んで座る。
けどレイにはちょっと椅子が合わなくて、クッションを足してもらう。
そうなるとアキヒサと目線が近くなったことが気になるらしく、チラチラ見てくるのがちょっと可愛い。
「聞いたぜ、森の木材運びを引き受けたって?」
座ったアキヒサらに、ガイルが早速その話を振ってくる。
さすがに小さな村だからか、話が早い。
「ええ、僕なら楽に運べますし。稼ぎにもなりますから」
「ハハッ、確かに!
アレにゃあそうした使い道があるんだなぁ」
ガイルが「妖精の鞄」とは言わずに話す。
このやり取りを、ちょうど配膳で近くにいた女将さんが聞きつけたらしく。
「おや、アンタが仕事で出るなら、その子はどうするんだい?
なんならウチで見ていようか?」
そんな提案をしてくれる。
――普通なら、ありがたい提案なんだろうけど。
女将さんの親切に、アキヒサは首を横に振る。
「いえ、レイも一緒に連れて行きます。
こう見えてしっかりした子ですから」
アキヒサはニコリと笑顔でありつつもきっぱりと断った。
それにレイは大事な戦力だ。
――だから置いて行かないから、レイはそんな無表情でじぃーっと見ないの!
レイの不安そうに見える眉を見て、アキヒサは頭を撫でる。
レイは案外、寂しがりやなのかもしれない。
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