第23話 木工工房にて

雑貨屋の店主に教えてもらった工房は、村の外れの方にあった。

 こんな場所なのは、騒音でご近所さんに迷惑をかけないためかもしれない。

 アキヒサが工房の看板がかかっている建物の前に立つと、中から作業音が聞こえてくる。

 少なくとも工房の誰かが中にいるようだ。


「あの~」


「なんでぇ!? 注文の品はまだ出来てねぇぞ!」


工房のドアをちょとだけ開けて声をかけると、奥からダミ声が跳んできた。


「いえ、受け取りに来たんじゃなくてですね。

 ちょっとした相談を……」


「なんでぃ、新しい注文だったら、ちいっとばかし長く待ってもらわなきゃなんねぇぞ」


「いえ、そうでもなくて」


このままだと話が始まらないので、アキヒサはレイをコートにくっつけたまま中に入って、ズバリと話をすることにした。

 工房の中でダミ声を飛ばしていたのは、小柄でずんぐりむっくりな体型のおじさんだった。

 どうやらこの人が、雑貨屋の店主から聞いていた工房の親方のようだ。

 アキヒサが親方にここへ来た目的について告げる。


「森の大木が通行の邪魔だったから、持ってきちゃったんですが。

 買い取ってもらえますかね?」


これを聞いた親方が、雑貨屋の店主と同じような呆れ顔をした。

 いや、こちらだって非常識なのは重々承知なので、そんな顔をしないでほしい。

 しかし、すぐに親方が尋ねてきた。


「……大木って、具体的にどのくらいだ?」


「え、木を丸ごとですけど?」


「なにを言っとるんだ?」


アキヒサは質問に答えただけなのに、意味が分からないという顔をされた。

 なので論より証拠ということで、アキヒサは通された工房の裏に、鞄から森の大木を一本だけ出す。


 ズドォン!


 地響きと共に地面に落ちた大木に、きっとご近所さんは何事かと思ったことだろう。

 レイもちょっとびっくりしたのか、アキヒサの後ろに隠れている。


 ――この一メートル上から落ちる仕様、どうにかならないものかなぁ?


 しかしそんな地響きもなんのその。親方は妖精の鞄から出された大木を、早速観察し始める。


「こりゃあまた、立派な木だなぁ」


うっとりとした口調の親方だが、これ一本で満足してもらっては困る。


「実は、まだ持っているんですけど。森で大木がバタバタ倒れてましたから。

 今その話をガイルさんが村長さんにしに行っているはずですが。

 危ないことはないだろうって言っていました」


アキヒサの説明に、親方が「なに!?」と叫ぶ。


「そりゃ早く拾いに行かんと、若い衆に呼び掛けにゃならんな!

 そのまま放置して腐らせるのはもったいない!」


そう話す親方がアキヒサを見る。


「そして兄ちゃんは出せ、持っている分をありったけ出せ!」


そう親方に催促されたものの、アキヒサとてここで馬鹿正直に全部出すのはさすがにマズいとわかっているので、五本を積んでおいだ。


「ようし、買おう!

 ここまで運んだ手間賃も付けてやるぞ。

 なにせコレを人力で運べば大変だからな」


親方がそう言ってきた。どうやら高く買ってくれるらしい。

 確かに、日本でも木を伐り出すのに傾斜を利用して滑らせたり、現地で小さく加工したりして軽くして運んだりと、色々工夫をされていた気がする。

 それが重機なんてものがない異世界なら、なおさら重労働だろう。

 そして結果、結構な買い取り金額になった。雑貨屋での買い取り額と合わせると、ちょっとした金持ちだ。

 こうしてお金が入ったので、早速買い物をしたい。

 工房でも木工製品の販売をしているようで、アキヒサはレイと一緒に品物が置いてある所を見に行く。

 まず目についたのが、木製食器シリーズだ。皿とスプーンが置いてある。


「木製の皿っていいな」


今使っている食器は、あのコンピューターが用意したであろう陶器っぽい手触りの皿と金属のフォークとスプーンだ。

 皿は飾り気の全くないデザインだし、フォークとスプーンも、いくらレイが鬼神スキルのおかげで力が強いとはいえ、三歳児の手には少々持ち辛いだろう。

 それが木製だったら、軽いし落としても割れないし、レイが扱うのにも負担が少ない。


「レイ、これ持ってみな」


僕は小さめの皿とスプーンをレイに持たせてみる。


 ――うん、サイズ感もいいな!


 レイも木の感触が気になるのか、しきりに皿をナデナデしている。

 これは買うしかないだろう。


「この食器、一揃いください」


「ほいよ」


親方が食器を包んでくれているのを横目に、他の作品も見る。

 まな板も欲しい、パンケーキ作る時に地味に果物のカットがしにくくて苦労したし。

 テント住宅を使えない場合を考えると、テーブルとイスもあったら便利だが、こっちは値段が桁違いだ。

 いつかお金が出来たら買おう。

 こんな感じで、いい品が手に入ってホクホク顔のアキヒサに、親方が尋ねてきた。


「……なあ兄ちゃん、アンタ旅人だろう? 先を急ぐのかい?」

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