第22話 雑貨屋にて

「ここかな」


アキヒサは教えられた通りの看板が下がる店のドアを、恐る恐る潜る。


「いらっしゃい」


すると奥のカウンターから、店主らしきおじさんの声がした。


 ――よかった、あんまり怖そうな人じゃない!


 厳つい人だったらどうしようかと思ったが、普通に優しそうな人だった。


「すみません、こちらで買い取りをしてもらえると聞いてきたんですけど」


「ああやってるよ、どんなものを持って来たんだ?」


アキヒサの質問に、店主がカウンターから手招きする。

 どうやらあそこで買取査定をするようだ。


「レイ、店の中を見ていていいよ。

 ただし、壊さないようにね」


大人の話は退屈だろうと思ってそう言うと、しかしレイはアキヒサのコートの裾をギュッと握り絞める。

 どうやら知らない相手を前に緊張しているようだ。


 ――ここは無理に引きはがす必要もないし、このままでいいか。


 そう判断したアキヒサは、レイを連れてカウンターへ向かう。


「えっと、まずは……」


どれを売ろうかと考えて、取り出したのは薬草だ。

 薬草の売買はRPGの基本だろうという判断である。

 アキヒサが鞄からドサッとカウンターの上に置いたものを、店主さんが一つ手に取ってまじまじと観察していく。


「お、ちゃんと根っこから採ってるな。状態がいいから高く買い取るぞ」


 ――やった、店主さんに褒められた!


 鑑定で根っこの方も薬効があるって出たので、レイにも千切らないようにお願いしておいたのだ。

 そして薬草以外にも、持っていても仕方がないアレを出してみようかと考える。


「ついでに、森でキラードッグを退治したんですけど。

 解体とかできないんで、そのまま持ってきちゃったのがあるんです」


「そりゃあ豪気なこった。どこにあるんだ?」


どうやら買い取ってくれそうな雰囲気だ。

 けれど、鞄から直接出していいものだろうか?

 ガイルからも気を付けろと言われたのだが。


 ――でも、手ぶらでここまで来たのは村の人に見られているもんなぁ。


 というわけで、店主に話すことにした。


「実は妖精の鞄を持ってまして、内緒にしてくださいね?」


アキヒサたち以外に客はいないのだが、なんとなくヒソヒソ声で告げる。


「客の情報をペラペラ喋ったりしねぇよ。

 道理で薬草をたんまり出せたと思ったぜ」


すると店主が少ししかめっ面をしてそう言った。

 どうやらアキヒサが心配したことで、プライドに障ったらしい。

 妖精の鞄は売れば一財産みたいだから、こっそりと盗っちゃおうとか考える人もいるだろうに。


 ――うーん、この店主さんって良い人だ。


 アキヒサは感激しつつもキラードッグを出した。

 時間が停まっているから倒したてホヤホヤだ。


「こりゃ綺麗だな。毛皮に傷がない」


店主が感心するが、確かにレイが殴って倒したから、毛皮は無傷だ。

 これは解体費用を差し引いて買い取りしてもらえた。それでも傷がないことで高くなったらしい。

 こうなったらついでなので、こちらのことも尋ねてみる。


「あと、実は森の大木も持っているんですが」


道をふさいでいた木を鞄に入れてきたと説明すると、店主に呆れられたものの、いい情報をくれた。


「そりゃあ、木工の工房に直接持っていった方がいいな。

 あそこの親方がそろそろ新しい木材を欲しがっていたはずだ」


「なるほど、じゃあそっちに持ち込んだ方が手間がないですかね」


アキヒサはこの話に頷いてから、まずは手に入ったお金で買い物だ。

 着替えとか生活雑貨とかの諸々を買い込むと、これからの生活に安心感がある。

 この買い物の間、レイには店主からイスを借りておやつ休憩をさせておく。

 それから、その木工工房とやらに行こうとなったのだが。


 ――う~ん。


 アキヒサは隣でじっとしているレイのことを考える。

 このまま工房へはしごしていいものか、それともレイを休ませた方がいいのか?

 判断がつかず、いっそ本人に聞いてみることにした。


「レイ、もうちょっと歩けるか?

 無理なら先に宿屋に行って待っておく?」


レイがフルフル、と首を横に振る。

 さっきのおやつ休憩で体力も回復したこともあり、一緒に行くようだ。


「なら、もうちょっと頑張ろうな」


というわけで、木工工房へ行くことになった。

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