第21話 無事に到着

アキヒサがこの世界で初めて見たのがコンピューターだったので、魔術やスキルなどのファンタジー要素があっても、「生活面では案外日本とそう変わらないのかも?」と思っていた。

 けれどリンク村は見たところ近代的ではなく、昔ながらの農村といった感じだ。

 家屋はヨーロッパ風の建物で、近寄るにつれて牛を飼ってあるのが見えて、逆に機械の類は見当たらない。

 獣避けなのか、ぐるりと木の柵で囲われているが、RPGのように入口を誰かが守っている様子でもない。

 きっと平和な村なのだろう。


 ――うーん、あの「世界の中心の塔」っていうのが特殊な場所だった、って思った方がいいのかなぁ。


 そして本当に、村の目の前までカマイタチの痕がある。

 アキヒサは村人に「お騒がせしてしまい申し訳ありませんでした」と謝りたい。

 アキヒサが神妙な気持ちで村を眺めていると、ガイルが軽く説明してくれる。


「ちょっと行ったところに大きな宿場町があるんだがな。

 ここだって一応街道沿いの村だから、宿なんかの旅人に必要なモンは一通りあるぜ?

 それに森の近くなもんで木工が盛んだから、質のいい木工製品が手に入る」


「へぇ、それはいいことを聞きました」


ぜひいいものがないか探してみたい。

 なにせアキヒサはあのコンピューターが用意したものしか持ってないので、特に着替えを手に入れたい。

 いくら洗濯するとしても、同じ服を着続けるのは気分的に良くない。

 そんなことを考えつつ、アキヒサたちはガイルの後ろに続いて、村の入り口らしい木の柵がぽっかり途切れた場所から入る。


「あ、ガイルさんお帰り!」


するとその辺りで作業をしていた青年が、ガイルを見つけて駆け寄って来た。


「森はどうだったかい!?」


青年は勢い込んでガイルに尋ねる。


「ああ、村長に詳しく報告するが、簡単に言えばなんともなかったよ。

 ちょっと獣や魔獣は騒がしかったがな。

 ありゃあ妖精の悪戯だな」


「なんだ、妖精の悪戯かぁ」


ガイルの説明に、青年も納得したように頷いた。


 ――え、本当に妖精の悪戯の一言で済ませちゃうんだ?


 アキヒサとしては助かるけど、それで大丈夫なのかと問いたくなる。


「そっちは? 旅人かい?」


「どうも」


青年から話を向けられ、アキヒサはニコリと笑う。

 元社畜の必殺技「初対面の人にはとりあえず笑っておく」である。

 無用なトラブルを避ける処世術だ。

 そんなアキヒサの傍らに無表情無口のレイがくっついているのは、効果半減か、幼児マジックで効果倍増のどちらだろうか?


「おう、森の中で行き会ってな。

 この村を目指しているから一緒に来たんだ」


ガイルがそう説明すると、青年が「へぇそうなんだ、いらっしゃい」とこちらにも声をかけてきた。


「なにもないところだけど、ゆっくりしていきなよ」


「ありがとうございます」


フレンドリーな青年の様子だと、どうやら排他的な村ではないようだ。

 街道沿いなだけあり、余所者に慣れているのだろう。

 異世界での初滞在先としては、田舎過ぎず都会過ぎず、ちょうどいい環境なのではなかろうか。

 こうして、アキヒサらは無事にリンク村に入れたわけだが。


「俺はまず村長に話をしに行かなきゃならんから、村を案内はできんが。

 宿屋はあっちの方にあるぞ……あの家を、ここで使うのはやめておけ」


さっきの青年と別れたら、ガイルにそう言われた。


 ――まあ、その方がいいよね。


 宿代はかかるが、無用なトラブルは避けたいところだ。

 しかし、そのために必要なことがある。


「場所を教えてもらえれば十分ですけど、ここって物を換金できる場所はありますかね?」


こういうことをごまかしても仕方ないので、アキヒサはガイルに正直に尋ねた。


「なんだ、路銀が心もとないのか」


「そうなんです、長旅で使っちゃいまして……」


本当は元から現金の持ち合わせがないのだが。


 ――コンピューターめ、現金も入れておいてくれよ!


 ……いや、千年前の現金を持たされても、逆に処理に困ったかもしれない。

 どちらにしろ、どこかで素材を手に入れて売る必要があったということか。


「まあ、お前さんみたいな旅人はよくいるもんだしな。

 そんなヤツのために、雑貨屋のおっさんが買い取りをしてくれるぜ」


ともあれ、ガイルが買取してくれる店を教えてくれたので、早速行ってみることにする。

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