第20話 リンク村へ行こう
というわけで、朝食を食べ終えたら歯磨きをして、それから出発となった。
けれどその際にひと悶着あった。
というのも、アキヒサがこのテント住宅の扱いのことを考えていなかったせいだ。
そのことに、家を出て「さあ縮めよう」と言う時になって気付いた。
――どうしようか?
アキヒサは迷うものの、どうしようもないため、とりあえず門の光に手で触れる。
シュルシュル!
「は!?」
急激にミニチュアサイズにまで縮んだテント住宅を目にしたガイルが、腰を抜かさんばかりに驚く。
というか、ちょっと腰を抜かしたのか地べたにしゃがみこんでいる。
「なんだこりゃあ!?」
大口を開けて顎が外れそうなガイルに、アキヒサは説明した。
「……僕のテントですけど?」
少なくとも、鑑定にはそう書いてあったので、テントの仲間のはずだ。
この説明に、ガイルは「そんなわけないだろう!?」と当然な反論をもらってしまったが、すぐにハッとした顔になる。
「もしかしてこれは、噂に聞いた『妖精の家』か!?
古の高位冒険者が持っていたとかいう、眉唾物の……!?」
ガイルが興奮した様子なのに、アキヒサは恐る恐る尋ねると。
「あの、珍しいですかね?」
「当たり前だ!
持っている奴なんて見たことも聞いたこともねぇぜ!」
そうがなり立てたガイルだった。
「……!」
その彼の前に、レイが無言で立ち塞がる。
――あ、ちょっとかかとを浮かせて前のめりだ。
これはもしかして戦闘体勢なのか?
ガイルの大声が、敵対行為だと思ったのかもしれない。
「レイ、レイ。ガイルさんは生まれつき声が大きい人なんだよ。
だからそんな風にしなくてもいいからな?
危ない人じゃないって、たぶん」
「たぶんじゃねぇよ、勝手に危険人物にするな!?
俺は安心安全な男だぞ!」
レイを宥めるアキヒサに、ガイルが突っ込んでくるが、その大声がレイの気に障っているみたいだから、もう少し穏やかに話してほしい。
いや、このテント住宅に驚いているせいで、声の調節機能がバカになっているのはわかるのだが。
攻撃体勢はやめたレイだが、やはり大きな声に威圧感を感じるようで、小さな足でゲシゲシと蹴っているのは、一応力加減をしているらしいし、幼児を怖がらせたガイルも悪いということで見逃しておく。
ところで、さっきから『妖精』というワードが連発している気がするのだが。
この世界だと不思議な物体や現象は、全て妖精のせいだということにでもなっているのだろうか?
なんだか妖精が可哀想だ。
「これ、これをどうした!?」
「……貰いました」
ガイルの質問に、アキヒサは嘘ではない答えを返す。
「どんな変人だよ、その相手ってのは!?」
ガイルがそう言うが、コンピューターは変人に入るだろうか?
そんなこんながあったものの、なんだかんだで出発した。
リンク村へはカマイタチの通り道を真っ直ぐ進むだけだが、その倒木を拾って片付けるのは今は止めておくことにする。
どうもアキヒサの鞄はガイルの知る妖精の鞄の限界を超えているようだから、あんなに大木が入ったらマズいだろうと考えたのだ。
そういう理由で、アキヒサはもっぱら探索に専念しながら歩いていく。
特にアポルとベラの実は、この森を出たら手に入るかわからないため、見かけたら即ゲットだ。
「……」
「お、上手に採れたなレイ。ココに入れてな」
ベラの実がすっかりお気に入りらしいレイも、一生懸命に摘んではこちらへ持ってくるので、鞄に入れてもらう。
それにしても、レイもたった一日足らずで結構三歳児らしく見えるようになったものだ。
まだ超絶無口なのは変わらないけれども。
――やっぱり美味しいもので釣ったのがよかったのかな?
ところで、こんな風に色々なものを見つけてはせっせと鞄に入れるアキヒサとレイを見て、ガイルが若干あきれ顔だ。
もしかして、進むのが遅いと思われているのか?
採取に夢中になり過ぎたのかもしれない。
しかし、この探索スキルは使えば使うほどに判定の精度が上がっていくので、やり込みたくなるのだ。
「すみません、僕ら遅いですよね」
謝るアキヒサに、ガイルが「いいや」と首を横に振る。
「子どもがいるから、ハナからそんなに急げると思ってねぇさ。
ただ、さっきからよく見つけるなぁ。
俺は薬草と雑草の区別がつかねぇ」
ガイルはそう言いながら、アキヒサが握っている薬草と足元のただの草を見比べ、肩を竦めている。
「ははっ、レイもそうみたいですよ。
草を見比べて不思議そうにしてますから。
僕はただ、探索スキルを持ってますから、そのおかげですね。
あ、レイ。今手に取ったのが薬草だよ」
アキヒサが教えてやると、レイはちょっと嬉しそうに口元を緩めてから、トコトコとこちらへ持ってくる。
それを鞄に入れると、また次のターゲットを探しに行く。
どうやらレイは、薬草当てゲームみたいに思っているようだ。
楽しいならいいのだけれど、水分補給はちゃんとさせないといけないだろう。
それからただの草を引っこ抜いたレイを、アキヒサが微笑ましく見ているのだが。
「……探索スキルって、『なんとなくあっちになにかありそう』って程度の、ほぼ役立たずスキルじゃなかったか?
そんなもんを、わざわざ金出して買ったのか、アイツ?」
ガイルがそんなことを呟いていたなんて、アキヒサには全く聞こえていなかった。
そしてやがて村が見えてきたのは、昼前頃だ。
「あれがリンク村だ」
そう言ってガイルが指差した先にあるのは、こじんまりとした村だった。
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