第18話 招待した
その男は柵の近くまで寄ってきた。
「飯時だったみたいだな、騒がせてスマン。
俺はガイルっていう名の冒険者だ」
「あ、はい。僕は戸次明久、アキヒサって言います。こっちはレイ」
相手が自己紹介をしてくれたので、こちらも自己紹介を返す。
レイはちらりと男――ガイルを見ただけで、絶賛モグモグ中だ。
「それで、なにか御用でしたか?」
「いや? ちょいと仕事でこの奥まで行くところだったんだが。
声が聞こえたもんでな、なにがあるのかと思って来てみたんだ」
アキヒサが尋ねると、ガイルはそう応じてくる。
「そうなんですか、それはお騒がせしました」
アキヒサはどうやらガイルの仕事の邪魔をしてしまったらしく、なんだか申し訳ない。
――あ、そうだ!
「ガイルさんもお急ぎでなければ、こっちで座りませんか?
良ければパンケーキ食べます?」
アキヒサはそう提案する。
邪魔をしたお詫びといってはなんだが、朝のエネルギーをここでチャージしていけば、ガイルの仕事とやらも捗るのではないだろうか? と思ったのだ。
それに、この世界について現地人から話を聞きたい。
このミールブロックパンケーキは、昼食やおやつのために余計に焼いてあるため、ここでガイルにあげる分はあるし、なんなら後でまた焼けばいいだろう。
「どうぞ!」
この庭側にも勝手口のように柵に入口が設置してあって、アキヒサはそこを開けてガイルに手招きする。
「そうか? じゃあ、ちょいと休憩させてもらうかな。
なにせどういう訳か知らんが木が大量に倒れて地形が変わっているせいで、昨日はここらで迷っちまってな。
魔物も落ち着かない様子でウロウロするし、ロクに休めなかったんだ」
するとガイルがそんなことを言いながら、テント住宅に入ってきた。
――なんか、スミマセンでした……。
アキヒサは内心で謝っておく。
魔物が落ち着かない理由はわからないが、大量の倒木は確実にアキヒサのカマイタチのせいだ。
「あの、どうぞここへ」
アキヒサは申し訳なさを誤魔化そうとヘラりと笑い、ガイルの分の場所を作ると、テーブルに置いていた鞄からパンケーキを出して皿に盛り付ける。
鞄から出して見せたアキヒサに、ガイルさんが「ほう!」と目を見張る。
「もしやそれは『妖精の鞄』か!? 珍しいものを持っているな!」
そう感心するガイルに、アキヒサは「おや?」と内心で首をかしげる。
あのコンピューターの話だと、この鞄は「よく使われている便利な品」という話だった。
けれどガイルには「珍しい」ものなのか?
――なんだか話が違うぞ?
アキヒサはとりあえず、知らないフリをすることにした。
「そうなんですか?
僕、これは人に譲ってもらったヤツで、詳しくはよく知らないんですけど」
譲ってもらったのは嘘ではない。人ではなくてコンピューターというだけだ。
アキヒサの言い訳に、ガイルは「はぁ~」と大きく息を吐く。
「そりゃいい御仁と巡り合ったもんだ。
けれどあんまりそういうのを、他人にホイホイ見せるもんじゃねぇぞ?
悪い奴に目を付けられたくないだろう」
ガイルに忠告されてしまった。
「僕はこういうのにも疎いんですけど、もしかして貴重なものなんですか?」
アキヒサが尋ねるのに、ガイルが大きく頷いて説明してくれる。
「ああ、『妖精の鞄』は遺跡やダンジョンで稀に見つかる物で、オークションに流れればバカ高い値が付く。
話に聞くと、家一軒分程度の収納力があるみたいだな。
便利だが、庶民には到底お目に掛かれない高嶺の花ってところだ」
――マジですか!?
この鞄の収納力は家一軒どころか、四次元なのだが。
やはり千年経てば世界のアレコレも変わってしまうものらしい。
だとすると、荷物に入っている気にならないような物も、案外超骨董品だったりするのだろうか?
色々気を付けようと決意するアキヒサであった。
そんな有益な話を聞かせてもらったところで、ガイルにイスに座ってもらう。
「どうぞ、食べてみてください」
そう言ってパンケーキを勧めたのだが。
「……」
レイがガイルの前にある皿をジトっとした目で見ていた。
レイはもしや、パンケーキが減るのが気に食わないのか、果てはガイルにまでジトっとした目を向ける。
――レイほら、そんな顔しないの。パンケーキはまだたくさんあるし、足りないなら焼いてあげるから!
アキヒサはそう思っても口には出さないで、レイを宥めるように頭を撫でる。
ガイルも当然、そんなレイの視線が気にならないはずもない。
「なんか、そっちのチビには嫌われてるっぽいな」
「ハハ、すみませんね。人見知りなもので」
ガイルのセリフに、アキヒサはレイのは単なる食い意地だと言わずに、笑っておく。
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