第二章 リンク村

第17話 異世界人と遭遇

そして、朝がきた。

 アキヒサは朝に小鳥のさえずりで起きるという、昨日とはうって変わって気持ちの良い目覚めを迎えると。


「……」


既に起きていたレイに至近距離で観察されていた。


 ――することなかったとかなのか?


 勝手に家から出たりしなかったのはエラいのだが、目を開けたらレイのドアップとは、結構寝起きからドッキリするものだ。


「おはよう、レイ」


とりあえずアキヒサはガン見状態のレイを目の前からどかして、起き上がって挨拶すると、レイは首を傾げる。

 どうやら、「おはよう」がなにを言われたのか分からないらしい。


「朝起きたら挨拶に、『おはよう』って言うんだぞ」


「……おはよう」


アキヒサの説明で理解できたのかは定かではないが、レイも挨拶をしてくれる。

 精神年齢0歳児という情報だったし、見るもの聞くものすべてが初めてだと思って行動した方がいいかもしれない。

 起きたら服を着て洗面台で顔を洗うと、朝食だ。

 予定通り、ミールブロックのパンケーキである。

 レイは率先してミールブロックを粉砕するお手伝いをしてくれる。

 二度目で手慣れたこともあり、すぐに焼きあがった。

 ホカホカのパンケーキを前に、レイの表情が若干嬉しそうに見える。

 ベラの実をたっぷりと盛った皿を切り株に置き、タイム茶とアポルジュースも用意したところで、アキヒサは庭のテーブルセットで食べようと思いつく。

 秋の季節のようだが、朝は寒いというほどでもないし、自然の中で食事というのは優雅な気分になると思うのだ。

 というわけで、リビングから庭へ出られるので、朝食が冷めないうちにサッサと移動だ。


 ――爽やかな秋の空気と美味しい食事、なんという贅沢!


 風呂に続いてまた感動しているアキヒサだったが、目の前のレイはそんなことに構わず、一人で「いただきます」をして早速パンケーキにかぶりついている。


 ――あ、ちょっとへにゃっとした顔をしたな。


 レイが目覚めて二日目にして、アキヒサは表情の微かな変化を感じ取る。


「レイ、美味しいか?

 食べて口に合うことを、美味しいって言うんだ」


美味しいの意味を知らないかもしれないと思い、解説をつけて聞いてみる。

 するとレイは、口いっぱいにほおばったパンケーキをごっくんと飲み込んで言った。


「……おいしい」


「それはよかった」

ミールブロックはまだまだたくさんあるから、いつでも作れるのだけれども、そんなにパンケーキを気に入ったのなら、いつか材料を揃えてフワフワパンケーキを焼いてやりたい。

 きっとフワフワにビックリしてくれるはずだ。

 こうしてアキヒサがレイの可愛さに癒され、朝からほのぼのとしていると。


「……!」


突然レイがその場に立ち上がり、テント住宅の柵の向こうのどこかを睨みつけるように見る。

 その雰囲気が、昨日にあのキラードッグを発見した時に似ている。


 ――レイの気配察知になにか引っかかったのか?


 けれどレイはまだ食べかけの皿を握ったままで、転んだら地面に落とす未来は確実だ。

 アキヒサはレイの手から皿をそっともらい受けて、テーブルに置いてやると、レイが睨む方向に視線をやった。

 すると――


「あー、美味そうな匂いがするなぁ」


そう言いながら森の木々の隙間から現れたのは、若い男だった。

 革鎧にマント姿に腰に下げた剣という、なんというか、これぞファンタジーの住人! と言いたくなる格好の男だ。


 ――これは、初の異世界人じゃないか!?


 アキヒサは興奮する。

 いや、厳密に言えば初めて会った「人」はレイだろうけど、こちらは生体兵器というカテゴリだし、なにより初期化されていて現地情報は持っていないため、あまり異世界人との初遭遇感がない。

 それに次にあの襲撃男は、人というよりあのデカいトカゲと同じ扱いでいいだろう。

 それはとにかくとして。

 この男が悪者であってはいけないので、アキヒサは鑑定をしてみる。


~~~

名 前 ガイル・ウォルド(人族)

性 別 男性

年 齢 28歳

職 業 冒険者

レベル 42

スキル 剣術レベル35 気配察知レベル17 釣りレベル3

~~~


 ――おお、冒険者って職業があるのか!


 アキヒサはRPGっぽくてワクワクする。

 そして悪人要素は見当たらない。

 レイの鑑定でも結構詳しく出たくらいだ、犯罪歴とかだって表示されそうなものだ。


「レイ、悪い人じゃなさそうだし、座っててな。

 パンケーキを食べ終わってないだろ?」


アキヒサがそう声をかけると、レイはこの男に興味を失くしたかのように睨むのを止めて、自分の皿のパンケーキ攻略に戻る。

 切り替えが早い三歳児である。

 それに今回判明したのは、このテント住宅の結界は匂いは遮断しないということだった。

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