第16話 実食と、お風呂

「お、なかなか美味そうにできたな」


異世界初料理を失敗せずにできたので、ちょっとホッとする。

 ドリンクもコップに出してナイフでカットしたベラの実を浮かべれば、スイーツに見えなくもない。

 水分補給も大事だし、日が暮れだして冷えてきたので温かい飲み物が欲しいので、お茶にいいのがないかと今日採ったものを見ていたら、薬草の中にタイムという日本のハーブのタイムそのままなのがあった。

 「風邪、心身の疲労回復効果あり。お茶によい」とあったので、鍋でお茶にしてみる。

 オレンジっぽい香りがして、なかなかいい感じである。このタイムはお茶のために多めに持っておきたい。

 ということで。

 こうして出来上がった食事をテーブルに並べたら、レイと向かい合って座った。


「ようし、じゃあ『いただきます』をしような」


アキヒサが手を合わせてそう言うと、レイは不思議そうな顔をする。


「ごはんを食べる前に、野菜なんかを育てた人への感謝だったり、僕らの糧となる命への感謝を込めて、いただきますって言うんだよ」


難しいかな、と思いつつも説明する。

 こういう感謝の気持ちが、戦闘狂に育たないための第一歩なはずだ。

 レイはわかったような分からないような顔をしているものの、とりあえずアキヒサの真似をして手を合わせた。


「いただきます」


「……いただきます」


アキヒサが言った後に続けたレイは、「これでいい?」と言いたげに見上げてくる。

 それに笑顔で頷くと、レイは心持ち明るい顔になった。


 ――お、ちょっとは感情が出るようになってきたか?


 最初はどうなることかと思ったが、なかなか素直な幼児ではないか。


「じゃあ、食べようか」


アキヒサがパンケーキの盛られた皿を手に持つと、レイも同じようにする。

 一人二枚焼いたのだけど、レイにはちょっと量が多いかもしれない。


「食べきれなかったら残していいからな、僕が食べるし」


一応無理して食べないようにそう言い聞かせると、レイはふるふると首を横に振った。

 どうやら「全部食べれるぞ」と言いたいらしい。

 事実レイは食べ始めたら黙々とフォークをぶっ刺したパンケーキを小さな口で齧り、しかし着実にパンケーキを削っていき、結局全部食べてしまった。

 そして空の皿をじぃーっと見つめている。

 多分美味しかったから名残惜しいのだろう。

 作った本人としては嬉しい限りだ。


「次のご飯も、これがいいか?」


そう尋ねると、レイがコクコクと頷いた。

 やはり、ミールブロックは幼児の口にも美味しくなかったのだ。

 食事を終えたら、風呂に入る。

 やはり一日の最後には風呂に入って、リフレッシュしたい。

 アキヒサは施設にいた頃、風呂は戦場だった。

 なにせ大勢の子どもが暮らしているのだから、全員を入らせるのは大変な苦労だ。

 大きくなると、小さな子をまるっと洗い上げるという作業も加わる。

 大人になると社畜をやっていた上に安アパート暮らしだったので、仕事で深夜を回った時間に風呂に入るのは隣近所から「水を使う音がうるさい」との苦情がくるため、湯船に浸かるという事が滅多にできなかった。

 たまにできた休みに近所の銭湯に行って広い風呂に入るのが、とても贅沢だったものだ。

 そんな苦い思い出の詰まった風呂が、今目の前にある。

 しかも、広い窓がついていて露天風呂気分とか、どんな贅沢だろうか?


「……」


一人泣きそうなくらいに感動しているアキヒサを、レイが不思議そうに眺めて、裸の足をペチペチしてくる。

 そう、今から風呂に入るため、二人してすっぽんぽんなのだ。

 湯船にお湯を張りにきた時も感動したのだが、いざ入るとなるとさらに感動してしまったアキヒサであった。

 子どもを洗うのは慣れたものだから、まるっと洗い上げて、湯船で溺れないように膝の上に乗せてやる。

 レイは風呂のお湯の音が気になるらしく、小さな手でバシャバシャとさせている。


 ――お風呂のオモチャとか、レイは遊ぶかな?


 浮かぶアヒルとか、水鉄砲とか、もしこの世界にあるのならばゲットしたいものだ。

 こうしてホカホカになったアキヒサとレイは、パジャマがなかったので新しい下着に着替えると、歯磨きをしたいが歯ブラシと歯磨き粉がないので、今日の収穫物の中にあった殺菌効果のあるという葉っぱで歯をこする。

 葉っぱを噛んでから歯にすり込むのだけど、やっぱり歯ブラシが欲しい。どこかに売っているだろうか?

 その後は、寝室のベッドに入ってスコンと寝てしまった。

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