第15話 パンケーキ

料理スキルについてわかったところで、早速料理だ。

 今回はあの味気ないミールブロックをちょっとアレンジしてみることにする。

 作るのはパンケーキ。ミールブロックを砕いて水で溶かし、それをフライパンで焼くだけの簡単調理だ。

 これは学生時代のバイト先の人が、なにかの懸賞でカ〇リーメイト一年分を貰ってしまい、それをなんとか食べつくす過程で作ったと言う話を思い出したのだ。

 その人曰く、あれを食べれば食費が浮くのは確かだが、すぐに飽きたために調べてたどり着いたレシピらしい。

 卵を混ぜればよりフワフワになるが、なくても十分だ。

 というわけで、アキヒサが台所で作業を始めると、いつのまにかレイが近くに寄ってきていた。

 なにをするのか気になるらしく、一生懸命に作業台を覗こうと背伸びしているのが、なんだか可愛い。


 ――あ、そうだ!


「レイ、これをぐちゃぐちゃの粉々にしてくれる?」


ミールブロックを砕くのは、レイにも手伝ってもらうことにする。

 経験がスキルになるなら、こうして料理を手伝わせていれば、レイにもスキルが生えるかもしれない。

 それになんとなく、料理は情緒の成長にいい気がするし。

 というわけで、アキヒサは見本を見せるために、ミールブロックを袋の上から拳で叩き、砕いてみせる。


「やってみな。疲れたらやめていいからね」


僕がそう言って踏み台代わりにイスを持ってきて、レイをその上に立たせると、ミールブロックの袋を手渡す。

 するとレイは早速真似して、叩き始め――


「あ! レイ、あんまり力を込めなくていいからな!」


アキヒサは慌ててそう注意する。


 ――危ない、あの怪力で叩かれたら、台所ごと潰れる!


 気付いた自分はエラいと思うアキヒサである。

 子どもはこういうぐちゃぐちゃにする作業が好きそうなイメージだが、レイは無言無表情でミールブロックを砕いている。

淡々と作業するその様子からは、楽しいのか判断できない。

 けれどミールブロックはいい感じに粉々になった。


「ありがとうな、レイ」


アキヒサはお礼を言ってそれを受け取り、粉々になったもの全部を深めの皿に入れ、水筒に汲んでいた「美味しい清水」を入れて混ぜる。

 なんとなく、蛇口の水よりも美味しい気がするのだ。

 ここで、料理スキルの出番である。


「じゃあ試しに、『攪拌』!」


スキル技の「攪拌」を試しに使ってみると、あっと言う間に混ざり、とてもクリーミーな生地となった。


 ――これは、ホイップクリームやメレンゲなんかを作る時に便利なんじゃないか?


 施設で誕生日の子どものためのケーキ作りによく駆り出されたアキヒサだけれど、電動ミキサーを使わせてもらえず、翌日腕が筋肉痛になってヒーヒー言ってたものだ。

 あの苦痛が無くなるのは素晴らしい。フワフワのお菓子は結構好きだし、材料が手に入ったらぜひ色々と試してみたい。

 それはともあれ、これで準備はできた。あとは焼くだけだ。


「よし、じゃあいよいよ焼くから、レイは火傷しないようにちょっと離れていような」


フライパンを取り出したアキヒサは、油跳ねからレイを守るために、イスから降ろしてちょっと距離を取らせる。

 というわけで、いよいよ焼こう。

 まずは森で採取していた「オラの実」という、オリーブに似た実を手に取る。

 これに料理スキルの「抽出」を使うと、思った通り透き通ったオイルが絞れた。

 やはり便利だ、料理スキル。

 このオラの実オイルを熱したフライパンに回し入れると、オラの実のいい香りがした。


 ――これはいいオイルだな、実のまま持っておけば持ち運びにも便利だし、見つけたら採っておくか。


 アキヒサはそう考えながら、オイルが熱されたところでミールブロックの生地を注ぐ。


 ジュワァァ……


 生地の焼ける美味しそうな音と香りが、台所に響く。


 ガタゴト


 そんな物音がしたので振り返ると、レイがイスを引っ張ってアキヒサの斜め後ろにきていた。

 そしてヨジヨジと自力でイスに上っている。

 どうやらレイは、どうしても焼くところが見たいようだ。

 レイは小さな身体で今日一日頑張ってたくさん歩いたし、戦ったりしたから、お腹が空いているのだろう。

 そんな空腹にこの音と香りはちょっとしたテロだ。

 なので近付いて来たレイに叱るなんてできない。


「すぐ焼けるから、もうちょっとの我慢だぞ~」


アキヒサはレイにそう声をかけながら、フライ返しが見当たらないので皿を使ってなんとかひっくり返し、両面焼けたところで皿に盛りつける。

 これにベラの実をちょっと潰してジャムみたいにして添えれば、あの味気ないミールブロックがお洒落なパンケーキに変身だ。

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