第13話 敵発見
こうしてまるでピクニック気分で進んでいるアキヒサだが、今のところ危険な生物には遭遇していない。
あの初日に襲ってきたデカいトカゲはなんだったのか? と思うくらいに平和だった。
実はこの平和さは、朝からあの怪しい男がアキヒサを襲撃してきた際の攻撃を、魔物が恐れて引きこもっている故であり、この辺りは普段であれば強い魔物が跋扈する魔境なのだが、そんなことをアキヒサが知る由もない。
それに途中まではカマイタチに倒された木を避けながら歩いていたのだが、鞄に無限に入るとわかってからは、木を丸ごと鞄に収納するという荒業を使っていた。
そんな平和な道中だったのだが。
「……」
レイが急に立ち止まった。
「うん? どうした? 疲れたか?」
アキヒサが尋ねると、レイは握っていたコートをクイクイと引っ張り、前を指さす。
そう言えばレイのスキルに「気配察知」というのがあったはず。
それになにかがひっかかったのかもしれない。
しかし、ここで立ち止まっていてもどうしようもないわけで。
「ちょっと、ゆっくり歩いて行こうか?」
アキヒサがそう提案すると、レイはちょっと間があってコクリと頷いた。
というわけで、アキヒサがゆっくり慎重に足を進めていると、探索スキルにも反応が出る。
そしてやがて、犬っぽい動物たちが一か所に集まっているのが見えた。
――うわ、どうしよう!
出発して初めて遭遇した敵(?)に、アキヒサはキョドる。
幸いあちらはなにかに夢中で、こちらの存在に気付いていないようだ。
ここはそっとこの場を離れて迂回するか? とアキヒサが考えていると。
「……!」
突然レイが隣から、弾丸のように飛び出した!
「ちょっ。レイ、どうした!?」
まさかレイが自ら危険に飛び込む真似をすると思っていなかったので、アキヒサはただ固まっているしかできない。
そしてすぐにレイの足音に犬たちが気付いた。
――っていうか、あの三歳児足早くない!?
レイが犬たちに迫るまで、ほんの一瞬だ。
「グァウ!」
リーダー格らしき犬が一吠えすると、他の犬たちもレイを威嚇して戦闘要体勢に入る。
コレは拙い、とアキヒサもわかっているが、まだ魔術は練習を始めたばかりだし、腰に下げてる短剣もこれから扱い方を覚えようとしていたところで、戦闘なんてできるはずがない。
しかしレイを見捨てられるはずもないわけで、焦って駆け付けようとする前で、時すでに遅くして、一方的な惨劇が繰り広げられる。
……レイによって、犬たちが一方的にボコボコにされるというワンサイドゲームの様相で。
まずレイがダン! と可愛い足で大地を踏みしめると、まるで衝撃波をくらったかのように犬たちが吹き飛ぶ。
そして手近な犬に素早く近寄り、拳を突き出すと「ドゴォッ!」と三歳児から発せられたと思えない衝撃音が響く。
一匹を仕留めたらすぐ次にと、レイは飛び回るように犬へ襲い掛かる。
ぱっと見軽い蹂躙だ。
――そっか、そうだよなぁ。
レイはあのデカいトカゲを軽くいなしてみせたのだ。
ならばあんな普通サイズの犬コロなんて、障害物ですらないだろう。
それにしても、なんなのだこの三歳児は?
まあ、生体兵器らしいのだけれども。
思い出せば、レイには「鬼神」というスキルがあったはず。
字面的にも厳つそうなスキルだなとは思っていたが、もしやコレが鬼神スキルなのか?
けれど、三歳児でコレって怖くないだろうか?
そりゃあヤンチャでヒャッハーしたくなるってものだろう。
そして動かない犬たちが出来上がるまで、ものの数分もかかっていない。
「おーい、レイ。怪我とかしてないか?」
アキヒサが恐る恐る犬たちを避けつつ歩み寄ると、レイはまるで電池が切れたかのように動きを止め、じぃーっとこちらを見ていた。
――うーん、落差が激しい。もしかしてスキルのせいかな?
とりあえず、ぱっと見で怪我はないようだ。
「どこか違和感はない?
殴り過ぎて手が痛かったりしないか?」
そう言いながらレイの身体をあちこち触ったりして調べると、特に痛がったりする様子はない。
実に頑丈な三歳児だ。
「なんともないみたいだけど、でもビックリするし危ないから、急に飛び出すのはやめような」
レイの頭を撫でながらそう言い聞かせるように話すと、レイは首を傾げていたものの、最後にはコックリと頷く。
まあこれだけ強かったら、危ないという状況を想像できないかもしれない。
「でも、おかげで助かったよ。ありがとうな」
レイが犬を蹴散らしたおかげで安全が確保できたのは本当なので、ちゃんと感謝の言葉も伝える。
するとレイが無表情ながらもモジモジする。
もしかして、照れているんだろうか?
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