第12話 便利な鞄

道なんて本当はないのだろうが、幸か不幸か、アキヒサがカマイタチで作ってしまった道が真っ直ぐに伸びている。

 そしてこれまた幸か不幸か、その道の先がマークの場所である。

 レイがトカゲを飛ばした作った道は、どこへ続いているのかは不明だ。


「疲れたら裾を引っ張っていいからな」


アキヒサは歩きながら、レイにそう言っておく。

 こちらからも気を付けるつもりだが、予想している以上に体力がないかもしれない。

 それからしばし。

 二人して無言で歩くが、今のところ順調だ。

 無言だけれども。

 大事なことなので二回言ったとも。

 おかげで小枝にとまる小鳥のさえずりが良く聞こえる。

 今季節はどのあたりなのか、木漏れ日が気持ちよく爽やかな風がいい気分だ。

 けれどこれが夜になるとどうなるかわからない。丸一日歩くのなら、どこかで野宿ということになるのだから。

 まあ、野宿と言ってもあのテント住宅があるので、厳密には野宿ではないのだけれども。

 けれども、暗くなる前になにかしらの食料はゲットしておきたい。

 あの味気ない食事が続くのはやっぱり勘弁である。


 ――こういう時には、あのスキルだよな!


 そう、コンピューターがつけてくれたスキル、「探索」を使うべきであろう。

 アキヒサが施設で取り合いをして遊んだゲームでも、歩きながらの採取は基本行動だったはず。

 なんとなく、RPGっぽくなってきたと、アキヒサはワクワクしてきた。

 傍らの幼児は無表情だが。

 けどこの探索スキルというのは便利なもので、見ている景色に気にするべきモノがあったら、マーカーが視界に直接映し出されるのだ。


 ――すごいなぁ、どういう仕組みなんだろう?

 異世界は日本よりもハイテクである。

 それらを鑑定すると、どういう種類なのかだってすぐにわかるので快適だ。

 そんなわけで、アキヒサがリアルRPGが楽しくて探索しまくっていると、「アポル」という名前のリンゴっぽいのとか、「ベラの実」というイチゴっぽいのとかを発見した。

 どちらも野生種で、アポルは秋から冬にかけて、ベラの実は春と秋の二度実をつけるらしい。

 ということは、今の季節は秋頃なのだろう。

 ならば今から寒くなるだろうから、防寒着をどこかで手に入れたい。

 アキヒサはそんなことを考えつつ、ゲットしたベラの実を試しに食べてみようと、水筒の水で洗って口に入れてみたら存外甘い。これはおやつに良さそうだ。


「レイも食べるか?」


尋ねても無言だったレイだが、代わりに小さな口をパカリと開いた。

 どうやら食べてみたいらしい。

 アキヒサが食べているのが、美味しそうに見えたのかもしれない。


「ほら」


レイの口にもベラの実を入れてやると、口をもぐもぐさせながら目を真ん丸にさせていた。


 ――かわいいじゃないか……!


 無表情とのギャップがすごい。

 そうか、これが職場の誰かが言っていたギャップ萌えというヤツなのかもしれない。

 それにあのミールブロックを食べた時との違いと言ったら。

 やはりあちらは特に美味しくなかったのだと理解してしまった。


「気に入ったなら、見つけたらたくさん摘んでおこうな」


アキヒサがそう言うと、レイは若干笑った気がしなくもない感じで、つまり笑ったのか無表情なのかがやはりアキヒサには判別がつかないのであった。


 けれど、あのミールブロックはまだまだたくさんあるわけだし、それに栄養があるのも確かだ。

 なんとかアレを美味しく食べる方法を編み出す必要があるかもしれない。

 歩いている内になにかいい食べ方を思い出せたらいいな、とアキヒサは考えるが、今はとりあえず採取だ。

 この際に昼食にしようとアキヒサはアポルの実もいくつか齧り、お腹を満たすと、他にも薬草などがあったので、売れるかと思って取っておく。


 ――薬草採取って、RPGの基本な気がするし。


 するとレイも採取をしたくなったのか、薬草とただの草を見比べて首を傾げている。

 鑑定がないと、薬草と雑草は一見区別がつきにくいから、まあそうなるだろう。

 ただ、手に取ったものを口に入れる癖だけはないようで、そこは安心だ。

 こうしてアキヒサやレイは目につく役立ちそうなものを手あたり次第、次々に鞄に入れていく。

 そうそう、この鞄だが。


~~~

四次元鞄

無限に収納できる。時間停止機能、盗難防止機能(持ち主へ自動回帰)付き。

ただし動物等の生きたままの収納は、生存の保障をしない。

~~~


鑑定するとこんな結果が出た。

 「ドラ〇もんかよ!」というセリフが出たのは、言うまでもない。

 それにしても中身が腐る心配も盗難の心配もないとは、なんとも便利な鞄だ。

 あのコンピューターが「便利な品」って言うだけのことはある。

 すなわち、どれだけ採っても困らないということで、俄然楽しくなってくる。

 植物以外にも、通りがかった小川が、鑑定結果で「美味しい清水」と出たので水筒に汲んでおく。

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