第11話 やっと旅立ち

魔術の練習もできたところで、いい加減に出発したいと思う。

 なにせ、RPGで言えばゲーム開始位置から一歩も動いておらず、始まりの村にすら辿り着けていないのだから。


「とはいえ、これからどこへ行ったものかな」


アキヒサがそう呟くと、またまたパネルが現れた。

 今度はどうやら地図を映しているようで、赤い三角のマークがチカチカしている。

 もしかして現在地なのかもしれない。


「なぁ、ちなみに『世界の中心の塔』ってどこだ?」


アキヒサが尋ねるとパネルの地図が縮小されて、青い三角マークが現れた。

 なるほど、世界の中心という名前だけあって、地図の中心にある。

 そして現在地はそこからかなり離れていて、海を隔てた違う大陸であった。

 とりあえず、あそこから遠いから簡単に戻れないことはわかった。

 それにコンピューター曰く塔は機能停止しているはずだから、戻っても仕方ないだろう。


「となると、ここから最寄りの街か村はどこだ?」


アキヒサのさらなる疑問に、しかしパネルの画面が少々乱れたかと思えば、「只今更新中」という文字が浮かび上がる。


 ――そう言えばあのコンピューター、最後に不安なことを言っていなかったっけ?


 「千年くらい外の様子を知らない」とか、そりゃあ情報が古いから更新が必要だろう。

 この更新作業でかなり待たされ。

 レイが暇を持て余したらしく、庭の草を千切っては投げるという幼児らしい遊びを始めた。

 綺麗な子だし無口なので、やはり人形めいた印象だったのだが、普通に幼児らしいところがあるんだなとホッとする。

 そんなレイの様子をほのぼのとした気分で観察しつつ、しばらくした頃。


「お、ようやく更新が終わった」


パネルに再び地図が映し出されたので確認すると、青い三角マークが複数あった。


「うーん、大きな三角マークと小さな三角マークかぁ。規模の違いなのか?」


アキヒサは地図そう呟いて、地図の縮尺を確認する。

 計算すると、ここから歩いてだいたい丸一日程度の場所に小さな三角マークが、三日程行けば大きな三角マークがある。

 さらに地図を縮小することができるらしいので、広域地図にして見れば、離れた場所にもっと大きな三角マークがあるので、こっちの方がもっと大きな街なのかもしれない。


 ――ひょっとしたら、この辺りは田舎なのか?


「とりあえず、一番近い所にいってみるかぁ。

 ほらレイ、ここに行こうか。どんな所だろうな?」

レイにも地図を見せてみるが、無表情にボーッと見ているだった。

 まあ、子どもに地図は難しいかもしれない。

 ともかく、向かう場所が決まったなら出発だ。

 荷物らしい荷物もないため片付けるものもなし。

 やったことと言えば、道中の水分補給のために鞄に入っていた水筒に台所の蛇口から水を詰めたくらいか。

 この蛇口も、どうやって水が出ているのか謎なのだけれども、きっと魔法っぽいなにかのシステムなのだろう。

 あとは、このテント住宅を出てコレを元の大きさに戻せば準備完了だ。

 というわけで、アキヒサはレイの手を引いてテント住宅から出た。

 が、しかし。


「……どうやって元に戻すんだコレ?」


そう、戻し方がわからないのである。

 アキヒサが悩んでいると、レイがクイクイと握った手を引いた。


「うん?」


アキヒサがレイを見ると、レイは小さな手でテント住宅の入り口の門を指さしている。

 すると、門に光っている場所があるのを発見した。


 ――おお、あからさまに怪しい!


 アキヒサが恐る恐るその光っている場所に手で触れると、ギュン! と小さく縮み、あのミニチュアな家になった。

 あの光を発見したレイはグッジョブである。


「教えてくれて、ありがとうなレイ!」


アキヒサはレイの頭をナデナデしながら、そのテント住宅を鞄に仕舞う。

 ナデナデされたレイは、きょとんとした顔をしていたけれども。

 ともあれ、テント住宅も仕舞えたところで早速旅立ちだ。

 なんだかんだで、時刻は昼前になっていたりする。

 レイはついさっきミールブロックを食べたばかりなので、お腹は空いていないようだし、昼食は道中に追々でいいだろう。


「今から歩くから、こまめに休憩しながら行こうな」


アキヒサはそうレイに話しかけるが、しかし子ども連れで歩く場合はどうすればいいのかと迷う。

 手を繋いだ方がいいのだろうか? けれど身長差があり過ぎて、手を繋いで歩くとどちらも歩きにくそうだ。


「ゆっくり歩くから、服の裾を握っとくか?」


アキヒサはレイにそう提案して、コートの端を手に握らせてみた。

 するとレイはアキヒサをじぃーっと見てから、それをギュッとしっかり握り込む。


 ――おお、だんだん意思の疎通ができてきたんじゃないか?


 このちょっとの反応がすごく嬉しいアキヒサである。


「じゃあ、出発だ!」


というわけで、アキヒサとレイはようやく、異世界の地へと歩み出した。

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