第10話 名前をつけてあげましょう

機能停止する以前にはあったのかもしれないけれど、ヤンチャして初期化された性格だったのなら、その名前を付けるとまたヤンチャになりそうだ。

 それに育児書にも、「名前をつけてあげましょう」とあったのだったか。

 けど、一応本人にも確認だ。


「僕が新しく名前を付けてもいい?」


そう言うも、子どもは無感情な目で見返してくるだけなので、勝手に了承と受け取って名前を考えることにした。


 ――なににしようかな……。


 呼びやすい方がいいだろうか?

 あと変に捻ると厨二病気味になるから要注意だ。

 アキヒサとしては、「生体兵器」とはなんなのかというのは置いておくとして、人に優しくできる素直な子に育ってほしい。少なくとも、あの早朝から襲撃してきた男みたいにはなってほしくない。

 そのためには、どんな名前がいいだろうか?

 アキヒサは「う~ん」と悩むことしばらくして、唐突にひらめいた。


「そうだ! 僕も君も、この世界でゼロからやり直すってことで、『レイ』ってどうかな?

 僕の国でゼロを意味する言葉なんだよ?」


「……レイ」


すると、子どもが名前をなぞるように声を発した。


 ――おお、初めて声を出した! よかった、ちゃんと喋れるんじゃないか!


 感激したアキヒサは、子ども――レイをギュッと抱きしめる。


「そう、今から君の名前はレイだよ」


僕がそう言うと、レイがこっくりと頷いた。

 こうしてとりあえず名前も決まったところで。

 そう言えばレイに持たせようと思っていた装備があったことを思い出す。


「ほら、このナイフはレイのだからな」


短剣同様に鞘とベルト付きで出て来たナイフを、レイに装着してやった。


「……?」


するとレイがアキヒサの短剣と自分のナイフを交互に見て、首を傾げている。


 ――ああ、似た格好なのが気になったのかな?


「僕とレイで、お揃いだね」


アキヒサが短剣をポンと叩いてみせると、レイも真似をするようにナイフを叩く。

 無表情のままだけど、可愛いかもしれない。

 幼児とは、なにをしても可愛いという、ズルい魔法の持ち主でもある。

 それはとにかくとして。

 ご飯を食べたレイには食休みをしてもらい、その間にアキヒサはもう一度魔術を試してみることにした。

 そう、ここで魔術を諦めるわけにはいかない。

 武器を扱うのに自信が無いアキヒサには、魔術はどうしても手に入れたい攻撃手段なのだから。

 あの身体の中で大きくうねったのが魔力とするなら、ひょっとして使った魔力の量が多すぎたのではないだろうか?

 よくわからないままに試したので、身体の中のうねりをそのまま放出してしまったのだが、もしかして指先くらいの魔力で十分だったのではなかろうか?


 ――今度は、被害が出なそうな魔術でやろう。


 明かりの魔術とかだと、失敗しても眩しいだけだしよさそうだ。

 でも一応、レイには目を閉じてもらっておくことにする。


「レイ、ちょっと魔術を使ってみるから、いいって言うまで目を閉じておいてくれる?」


「……?」


レイは不思議そうな顔をするも、素直にギュッと目を閉じる。

 どうやらこちらの言っている内容はわかるようだ。

 よかった、単に反応が薄いだけらしい。

 それにしても、美幼児はこうしているのも可愛い。


 ――じゃなくて、早くしないとレイがずっとこのままだ。


「えっと、ほんの指先だけの魔力で、ライト」


アキヒサは指先の分だけをほんのちょっと押し出しつつ、自分でも慌てて目を閉じる。

 今のところ、あまり眩しくない。

 アキヒサがソロォリと目を開けると、指先に電球程度の大きさの丸い灯りが浮かんでいた。


「おお、成功だ!

 やった、考えた通りだった!」


喜んでいるアキヒサのコートの裾が、ちょいちょいと引っ張られる。


 ――あ、レイが目を閉じたままだった。


 アキヒサのはしゃぎ声が気になったのか、あちらからアクションされたのは初めてで、ちょっぴり感動だ。


「レイ、目を開けていいよ」


合図と同時にパチリと目を開けたレイの前にしゃがみ、指先の光の玉を見せてやる。


「これが、ライトの魔術」


「……まぶしい」


まあ、間近で見たらそうだろう。

 今は夜ではないので灯りは必要ないから、この光の玉は消しておく。

 これで夜も照明要らずだ。

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