第8話 安全のために備える

こんな風に、騒々しく始まった朝だが、起きたらお腹が空いていた。

 そう言えば、昨日はなにも飲み食いせずに寝たのだったか。


「食べるものって、確か食料品っていうのがあったっけ?」


昨日見た荷物一覧を思い出したアキヒサは、早速パネルに食料品の詳細を表示させる。

 すると、食料品の内訳は二つだけだった。


「えー、『ミールブロック』と『ドリンク』?」


なんだか、あまり期待が持てないネーミングである。

 それでも多少の期待を込めて、早速ポチっと押して取り出してみる。

 するとお約束の一メートル上から落ちて来たのは、パッケージされたブロック状の固形物と、チューブに入った液体だった。


「……まんま保存食だな」


もしかするともしかして、これが一か月分ってことなのだろうか?

 今までのアキヒサの食生活と変わらないのだが。

 最近では特に、仕事に追われて時間がなかったから、朝食と昼食はもっぱらこういうのばかりだったが、あまり懐かしみたくはない。

 そんな日本での生活を思い出す物体であっても、劇的に味が美味しいかもしれないという期待を捨てずに、ミールブロックとやらを食べてみることにする。


「いただきます……うん、うん? うん」


アキヒサは一口ごとに首を捻る。

 結論を言うと、腹には溜まるが、美味しいかといえば微妙だ。

 味はカ〇リーメイトのプレーン味に似ていて、ドリンクの方はポカリ味。

 少なくともアキヒサは、毎日三食コレを食べたくはない。

 食事をなんとかするのが、まず最初の急務かもしれない。



美味しいか美味しくないかはともかくとして、とりあえず朝食は食べることができた。

 まだ子どもが目覚める一昼夜は立っていないが、これからなにをするかとアキヒサは考える。


「……武器くらい持っておくべきかな」


今日みたいなヤバいヤツもいるみたいだし、そもそも魔物がいるっていうことであったはずだ。

 この世界がどんな世界なのかわからないけど、「全属性魔術」でも生きていくのに確実じゃないってことだったので、武器は必要だろう。


「ていうか、そもそも武器とかあるかな。お、あるある」


パネルが武器一覧を表示したので、一つ一つ確かめる。

 どうやら長剣・短剣・ナイフ・槍・弓などなど、武器は一通り揃っているようだ。

 あと防具が革の胸当てにローブとあった。


 ――なんか、見るからに初期装備って感じだな。


 まあこちらは異世界初心者なのだから、初期装備でいいのだけれども。

 そして、武器について吟味した結果。


「うーん、武器は短剣でいいかな」


アキヒサはそう結論付ける。

 まず単純に、剣とか槍を扱える自信がない。

 そんなものをふり回せば、自分で自分を攻撃しそうだ。

 というわけで、短剣を取り出すと鞘とベルト付きで出たので、早速装着する。

 あと防具も革の胸当てを装備した。


 ――これでいっぱしの旅人っぽく見えるかな?


 なんとなく、ちょっぴり強くなった気分になったアキヒサは、短剣を振ったりしてみた。

 しばらくして恥ずかしくなって止めたところで、ふと思う。


「あ、念のためにこの子もなんか装備がいるかな?」


今はアキヒサに抱っこされているこの子だが、三歳児ならばちょっとしたものが持てそうだ。

 日本であれば幼児に武器なんてとんでもない、と言われるところだろう。

 だがここは異世界、危険は大人も子どもも区別してくれないだろう。

 でも重たいものを装備させても動けなくなるだろうから、ナイフにしておく。

 それに武器としてだけじゃなく、木の実を採るのとかにも役立つだろうし、防具とかは成長を見つつ追々ということで。

 こうして装備を整えたものの、まだ不安だ。

 武器をうまく使いこなせる自信なんど皆無であるので、やはり攻撃手段は持っておきたい。

 というわけで魔術の練習だ。


 ――せっかく「全属性魔術」なんてワクワクするものを貰ったんだから、使わない手はないよね!


 けれど、魔術とはどうやって使えばいいのか尋ねると、パネルに表示される。


「へえ、呪文とかはなくてイメージで発動するか」


イメージしやすそうな魔術で、安全そうなものはなんだろうか。

 アキヒサは施設で他の連中とゲーム機を取り合いをしてやっていたゲーム知識を引っ張っり出す。

 まず、ここは森だし、火はまずいかもしれない。

 山火事なんて、ヤバそうであることだし。


「風の魔術なんかだといいかな?

 風の魔術といえばカマイタチとか?」


というわけで、アキヒサは魔術の練習をするために外へ出た。

 しかしテント住宅の敷地外ではなく、柵の中の庭先である。

 やはり、外は怖いのだ。

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