第6話 襲撃された
「参考になるような、ならないような……」
アキヒサは一人唸る。
どれも特別な子育てのコツというわけではない。
ああでも、一番目の項目は気になるか。
「起動」というのはまるでロボットのようだが、このまま放っておいても目を覚ますことはないということで、つい先程のあのトカゲ退治は緊急事態的活動だったのだろうか?
――それに、喋り方も変だったかな?
それにしても一昼夜ということは、丸一日抱っこしておくということで。
だとしたら、抱っこ紐みたいなものが必要かもしれない。
三歳児を抱っことなると、かなり腕力体力が必要だろう。
アキヒサは家庭は縁遠かったが、小さな子どもの世話は慣れている。
なにせ施設にいる子どもたちは、大きな子どもが世話をするルールであったので。
またまた荷物一覧を見て、良さげな紐を探し出して取り出す。
今度は一メートル上から落ちる前にキャッチできた。
どうやらこういう状況を仮定して入れていたのか、柔らかい素材だが丈夫そうな紐であった。
アキヒサはそれを使って昔を思い出しながら、子どもを前に抱っこする形に固定する。
後ろだと様子が見えないので不安なのだ。
「これでよし! にしても、本当に起きないなぁ」
アキヒサは抱っこするために結構あれやこれやと動かした幼児を見下ろす。
全くピクリとも動かないので、生きているのか不安になるレベルだが、ちゃんと体温はあるし心音も感じる。
――とりあえず、一昼夜待ってみるか。
アキヒサはそう思ったとたん、なんだか眠くなってきた。
思えば自分はここ数日どころか、数か月単位で満足に睡眠がとれていないのだったか。
身体は新しく造り直されたみたいだから、睡眠不足もリセットされたのかもしれないけれど、思い出してしまったらなんだか眠くなってきた。
もう異世界へ来てしまったのだから、まだ夜が明けきらぬ時間から仕事に向かう必要もないわけで、好きなだけ惰眠をむさぼれるのだ。
「うん、まず寝て、起きてから、色々考えるかぁ、ふわぁ……」
アキヒサは部屋を見に行ったら布団付きベッドがあったので、そこへ幼児を抱っこしたままゴロンと横になると、速攻で寝てしまった。
次に目を覚ましたら、どうやら朝だった。
テント住宅内に時計があって、その見方が日本と同じだとすると、朝だろうと判断したのだ。
しかし、朝になったから起きた、なんていう爽やかな理由で目を覚ましたわけではない。
ドガァァン!
さっきから響いている、この轟音のせいで強制的に目を覚ましたのだ。
この音は一体なんなのだ?
この家型テントにはこんな派手な音の目覚まし機能でもついているのか?
そしてこの轟音の響く中でも、幼児は起きない。
抱っこ紐の中に大人しく収まっている。
一昼夜過ぎるまで、意地でも起きないシステムなのかもしれない。
ドガァァン!
再び響いた轟音は、どうやら外から聞こえているらしいことを、アキヒサは寝ぼけ頭ながらに気付く。
「外になにがあるんだ?
これが鳥の鳴き声だったりしたら嫌だな」
アキヒサはそんな独りごとを言いながら、とりあえず窓から外を見てみようとする。
どうでもいいが、独り言が多いのは一人暮らしが長くなった生活の弊害であろう。
独り暮らし歴の長い知り合いは、たいてい独り言が多いヤツばかりだった気がする。
そんなわけで、外を見ると。
「うん、森の木しか見えないや」
窓から見えたのは、森だった。
原因はどうやら、窓から見える範囲外のようだ。
横開きではなく、跳ね上げ式の窓を開けて、外へと頭を出す。
「え~っと、あ?」
外の景色をキョロキョロと見回しているアキヒサの目を、上空からチカッとした光が射したかと思ったら。
ドガァァン!
強烈な光と共に、再びの轟音と衝撃が襲い掛かる。
どうやら原因は上空のようだ。
――眩しい、そして目が痛い!
目の痛さにしばし呻いていたアキヒサは、ようやく視力が回復したところで、抱っこ中の子どもを壁との間に挟まないように体勢を維持しつつ、懸命に首を伸ばして上を見ると、空に人影が浮いているっぽいのを発見した。
「空に浮いているとか、魔法か!?
ああそうか、魔法がある世界だココ」
自分で驚いて自分でツッコんだアキヒサは、あの人影が轟音の犯人か? と窺っていると、その人影がチカッと光った。
「うひっ!?」
アキヒサが慌てて引っ込んで窓を閉じると、再び襲い来る轟音。
しかしさっきみたいな衝撃はない。
どうやら屋内に引っ込むと、衝撃は消えるようだ。
素晴らしい衝撃吸収力である。
――なんだ、なにに襲われているんだ僕って!?
アキヒサがパニックになっていると。
「出てこい、そこの家の中にいるヤツ!」
上空から声が降ってきた。
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